小型機・ヘリのFDMは「どこまでやれば最低限いいのか」——国交省ガイドライン32ページを3段階で整理
国土交通省航空局が2023年8月に出した「小型航空機用FDM導入ガイドライン」は、全32ページあります。取り付け、電波、データの取り扱い、活用方法まで幅広く書かれていて、読み終えても「結局、うちは何をすればいいのか」が掴みにくい資料です。
そこで、どんなFDMなら最低限よいのかという目線で整理し直しました。
先に結論です。
- ガイドラインは義務ではなく推奨。本文にも「音声や映像のみの記録でも十分に有効」とある
- 最低限なら、市販のアクションカメラかスマホで、計器盤と(できれば)音声を記録するだけで成り立つ
- 条件は、機体を改造しないことと、電波を出す使い方をするならEMC試験をして書類を残すこと
- これから機器を選ぶなら、ATC音声が録れて、4Hz・フルHD以上、電源連動で約10時間分を上書き保存できるものが目安
FDMとは、何を指しているか #
FDM(Flight Data Monitoring)は、ICAOの定義では「運航の安全性を向上させるために、記録した飛行データを分析するプロセス」です。機械そのものではなく、記録して振り返る仕組みのことです。
ガイドラインは、そのための機器(FDM機器)を3種類に分けています。
| 種類 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| FDM機能(組み込み型) | グラスコクピットなどに備わっているデータ記録機能 | アビオニクスのデータログ |
| FDM機器(一般) | 航空用に開発・製造されたFDM機器 | Vision1000など |
| FDM機器(さらなる簡易型) | 汎用品だが、FDMの用途に使える機器 | アクションカメラ、スマートフォン |
大型機に義務付けられているFDR(耐衝撃・耐火・耐水を備えたフライトレコーダー)とは、明確に別のものとして扱われています。
搭載が推奨される機体 #
- 最大離陸重量5.7t以下の飛行機と回転翼航空機のうち、飛行記録装置の搭載が義務付けられていないもの
- このうち、官公庁の救難救助などを任務とする回転翼航空機は、難易度の高い運航を行うため「より強く推奨」
① 最低限のライン——これだけでも有効 #
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 機器 | 市販のアクションカメラかスマートフォン(さらなる簡易型) |
| 撮るもの | 計器盤(対気速度、気圧高度、姿勢、エンジン計器など)と、できれば窓の外の水平線 |
| 優先順位 | 明るさの差で両方をきれいに撮れない機器なら、窓の外より計器を優先 |
| 音声 | ICS(インターコム。管制交信を含む)が録れれば理想。外部音声入力のない機種は内蔵マイクだけになる |
| 航跡 | 機器のGPSで記録。機体の中央に付けると測位できないことがあるので、なるべく窓の近くに |
| 電源 | 機体にもともとあるシガーソケットなどから定格内で給電するか、モバイルバッテリー |
ガイドラインの言葉でいえば、パラメータが直接記録されない機器は、計器盤の必要な計器が映る位置に付けることで補います。パイロットの肩や頭が映り込まない画角にするのがコツです。
「持ち込み品」として使う2つの条件 #
機体の改造(STC)によらず、持ち込み品として使う場合の条件は、次の2つだけです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 条件① | 航空機の整備・改造にあたる新たな取り付けを機体に施さないこと |
| 条件② | 携帯型電子機器の電波に対する電磁適合性(EMC)試験を実施し、耐性評価結果を証明する書類を保管すること |
条件②が必要になるのは、電波を出す使い方をする場合(Bluetoothでヘッドセットとつなぐなど)と、電磁適合性の安全がまだ確認されていない場合です。試験は、搭載する機体と持ち込む機器のすべての組み合わせについて、実際に使う形で行います。機器を交換したら、試験はやり直しです。
有線のマイクや、機体にもともとあるオーディオジャックにつないで音声を録る方法で、電磁適合性の安全が確認されていれば、条件①だけで使えます。
ガイドラインには、アクションカメラで4通り、スマホで2通りの構成例が載っています。
| 構成 | 音声の取り方 | 必要な条件 |
|---|---|---|
| アクションカメラ① | 有線マイク2本をヘッドセットのマイク部とイヤホン部に付ける | 安全確認済みなら①のみ |
| アクションカメラ② | 機体側の既設オーディオジャックにカメラの音声入力をつなぐ | 安全確認済みなら①のみ |
| アクションカメラ③ | ヘッドセットとBluetoothで接続 | ①と② |
| アクションカメラ④ | 音声なし、映像と航跡のみ | 安全確認済みなら①のみ |
| スマホ① | 有線マイクでヘッドセットの送受信音声を録る(航跡用アプリが必要) | 安全確認済みなら①のみ |
| スマホ② | Bluetoothで音声機器と接続 | ①と② |
スマホでモバイル通信(LTEなど)を上空で使う場合は、契約している携帯電話会社への手続が別に必要です。機内モードなどで通信しない設定にすれば、その手続は要りません。
取り付け位置——ここは必ず守る #
| 条件 | |
|---|---|
| 1 | パイロットの窓外視界や計器への視線を妨げない |
| 2 | 操縦中や上空での操作で、パイロットの体がぶつからない |
| 3 | 脱出の妨げにならない |
| 4 | 振動で外れることを想定し、外れてもペダルなどの操縦操作に影響せず、乗員・乗客がけがをしない位置 |
ケーブルやハーネスは決められた場所に収納するか、テープで壁面に固定して、視界の妨げや、操縦・脱出時に引っかかる位置に置かないようにします。
この条件を満たせば、複数台の搭載も妨げないとされています(たとえば計器用と窓外用の2台)。実際の取り付け例として、Bell 505やTBM700では窓に吸盤で、R44やR22では機体フレームにマウントで固定した写真が載っています。
電源の注意 #
- 電源は、既設のシガーソケットなどを定格容量以内で使う
- 新たに電源取り出し口を設けると、STC(追加型式設計承認)か修理改造検査が必要になる可能性がある
- モバイルバッテリーを使う場合は、爆発物等の輸送基準の告示(別表第18)にある容量・個数の要件に従い、飛行後は機内に放置せず持ち出す(モバイルバッテリーの機内持込みルールの記事も参照)
② 推奨のライン——これから機器を選ぶなら #
ここからは、新しく機器を選ぶときの参考です。ガイドラインも、一部のデータしか取れない機器の搭載を妨げるものではない、と断っています。
| 項目 | 推奨内容 |
|---|---|
| 飛行パラメータ | 位置(緯度・経度)とGPS高度、針路(またはヨーレート)、ピッチ、ロール(それぞれレートでも可)、対地速度、3軸加速度。外付けのGPSアンテナが使える機器はより有効 |
| 音声 | ICS音声の記録。とくにATC音声の取得を強く推奨。エンジン音などの環境音も |
| 映像 | 4Hz以上のフレームレート、フルHD以上の解像度 |
| 記録の範囲 | 電源ON(チェックリスト開始)から電源OFF(スポットで機体電源を切る)まで連続して記録。電源に連動して自動で記録を始める機能が有用 |
| 保存容量 | 最新約10時間分を保持し、満杯になったら古いものから上書き |
| データの取り出し | 有線、無線、SDカードなどの記録媒体のいずれか |
| 解析ツール(メーカー提供の場合) | 姿勢・航跡のアニメーションと、映像・音声の同期再生 |
| データ形式 | メーカーのツールがあれば問わない。なければ一般的なアプリで確認できる形式 |
10時間という数字は、訓練機関で1日分のフライトをすべて残せることを目安にしたものです。参考までに、事故調査用の軽量フライトレコーダーに対するEASAの規則では、飛行パラメータ最低5時間、映像・音声最低2時間とされています。
アクションカメラには電源連動の自動録画がないので、飛行前と飛行後のチェックでスイッチのON/OFFを確認することが推奨されています。実証調査で「押し忘れ」が報告されたためです。
③ 求められていないこと #
- 耐衝撃性・耐火性・耐水性の規格(ED-155やRTCA/DO-160など)への適合は、必ずしも求めない。米国の事故調査では、Vision1000、GoPro、Virbを搭載していた機体の記録が役立った例がある
- 可能であれば、国内外で認証を得ている機器が望ましい、という程度
- ガイドラインに従うこと自体が義務ではない
一方で、機体に新しい電源口や音声ジャックを設ける、機器を機体に恒久的に取り付けるとなると、STCか修理改造検査が必要になります。迷ったら航空局安全部安全政策課に相談するよう書かれています。
運用の最低限 #
機器を付けただけでは、FDMにはなりません。運用面の最低限をまとめます。
飛行前のチェック #
| チェック | ポイント |
|---|---|
| バッテリー残量 | 内蔵バッテリーの機器は飛行前に充電 |
| SDカードの空き | 予定のフライト分を記録できるか |
| 電源 | 正常にONになるか |
| ケーブル | 緩みや差し込み口の誤りがないか |
| 取り付け位置 | 最初の取り付け位置を写真で残し、毎回それと同じ位置か確認 |
飛行後 #
- 1日の運航終了後など、決まったタイミングでデータを回収する
- SDカードを使う場合は、予備を複数用意しておく
- 無線で取り出す場合は、確実に飛行を終えてから伝送する
データの管理 #
- 組織内で管理責任者を決め、アクセスできる人を限定する。媒体は施錠などで管理する
- データとは別に管理簿をつける(ファイル名、飛行目的、日時、機体、操縦士のID、ヒヤリハットの有無と内容など)。操縦士は実名でなく記号にしてもよい
- 使い方ごとのルールを決めておく
| 使い方 | 扱い |
|---|---|
| そのフライトの操縦士と教官で振り返る | 管理者に伝えれば、特別な承認は不要 |
| 整備に使う | 管理者と調整し、その飛行の操縦士の利用許諾を得る |
| 他の操縦士向けの社内教育に使う | 慎重に。会話を含まない音声、操縦士が映っていない映像に限るのが望ましい。人が映る場合はモザイク等をかけ、本人の許可を得る |
| 外部に提供する | 秘密保持契約を結び、データの範囲・目的・形式などを文書で取り決める |
- 事故・重大インシデントが起きたときに、運輸安全委員会へ速やかにデータを提供できる体制を作っておく
何に使えるのか #
ガイドラインが挙げている使い道は、次のとおりです。
- 機体の不具合のモニタリング——不具合が映像やデータに残り、原因を追いやすくなる
- 運航のモニタリング——操縦や標準手順、空域制限の遵守の振り返り。リスクの高い飛行への抑止にもなる
- 訓練・技能向上——教官との振り返りや、自分の操縦の振り返り
- エビデンス——他の空域利用者、メーカー、近隣住民、保険会社などとの調停で、正確なデータを示せる
- 事故調査——事故や重大インシデントの原因究明に役立つ
まとめ #
- 国交省の「小型航空機用FDM導入ガイドライン」(2023年8月)は推奨で、義務ではない。「音声や映像のみの記録でも十分に有効」とされている。
- 推奨対象は、記録装置の義務がない5.7t以下の飛行機と回転翼機。官公庁の救難救助ヘリはより強く推奨。
- 最低限:アクションカメラかスマホで、計器盤(優先)と窓外、できればICS音声を記録する。条件は機体を改造しないことと、電波を出す使い方をするならEMC試験+書類保管。取り付けは視界・操縦・脱出を妨げず、外れても危険のない位置。
- 推奨:位置・GPS高度・針路・ピッチ・ロール・対地速度・3軸加速度、ATC音声、4Hz・フルHD以上、電源ONからOFFまで自動記録、約10時間分を上書き保存、アニメーションと映像・音声の同期再生ツール。
- 不要:耐衝撃・耐火・耐水の規格適合。ただし新しい電源口・音声ジャックの設置にはSTCか修理改造検査が要る。
- 運用:飛行前チェック(電池・SD・電源・ケーブル・取り付け位置の写真照合)、定期的なデータ回収、管理責任者とアクセス制限、管理簿、プライバシーへの配慮、事故時に提供できる体制。
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出典 #
- 国土交通省航空局安全部安全政策課・簡易型飛行記録装置導入ガイドライン策定検討会「小型航空機用FDM導入ガイドライン」(令和5年8月)
本記事は、ガイドラインの内容を筆者が整理したものです。実際の搭載・運用にあたっては、ガイドライン本文と関係する告示・通達を確認し、取り扱いに疑義がある場合は航空局に相談してください。
ヒーロー画像:「Robinson R44 cockpit」by Dtom(Wikimedia Commons / CC BY 3.0)。ロビンソンR44の操縦席(イメージ)。掲載にあたり切り抜きとリサイズを行いました。
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