ヴァーティゴ——空間識失調はなぜ起きるのか


航空事故の原因として繰り返し登場する言葉がある——「空間識失調(Spatial Disorientation)」、通称ヴァーティゴだ。

感覚は信頼できない

人間の平衡感覚は、地上での生活に最適化されている。雲の中や夜間飛行では、体の感覚が実際の姿勢と大きくずれることがある。

「右に傾いている気がして、左に修正した——実際は水平だったのに」という錯覚が、知らないうちに生じる。これがヴァーティゴだ。

計器を信じる訓練

だからこそ、計器飛行の訓練では「感覚より計器を信頼する」ことを徹底的に叩き込む。体が「傾いている」と叫んでいても、計器が水平を示すなら計器が正しい。

事故事例から

1999年のJFKジュニア墜落事故も、空間識失調が原因の一つとされている。夜間の洋上飛行という、視覚的手がかりが極めて少ない状況だった。

パイロットにとってヴァーティゴは「他人事」ではない。誰でも陥りうるからこそ、対処法を身につけておくことが命を守る。