ロビンソンR88——10人乗り単発タービンの「割り切った」メインローターを読み解く
ロビンソン社が開発を進める新型ヘリコプターR88について、同社CEOのデイビッド・スミス氏がVertical誌のインタビューでメインローターシステムの設計思想を語った。読んでみると、これまでのR22・R44・R66とは「別物」と言ってよい思い切った設計になっている。要点をまとめておく。
R88とはどんな機体か #
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 座席数 | 10席 |
| エンジン | Safran Arriel 2W(単発タービン) |
| 用途 | ユーティリティ(外部吊下げ=スリング作業)が主眼 |
| 位置づけ | 「ピックアップトラック」のような働く機体 |
| 状況 | 設計段階。初飛行は来年(2027年)を予定 |
スミス氏は機体の性格を「俊敏さよりも重作業(重量物の吊り上げ)を優先したワークホース」と表現している。狙っているのはベルのヒューイ(UH-1)のような“働くヘリ”の領域だ。実際、設計のインスピレーションもヒューイから得ているという。
メインローターの設計思想 #
R22の延長線上ではない #
スミス氏は「R22のようなものではまったくない」と明言している。小型機の血統をそのまま大型化したのではなく、ワークホースとして一から考え直したという位置づけだ。
ただし、ロビンソンの代名詞である2枚ブレードのティータリングローターは踏襲する。多枚ローター化はせず、シンプルな構成を維持した。
メタル製・幅広コード #
ブレードはコンポジット(複合材)ではなくメタル製を採用する計画。さらにコード(翼弦長)を広く取ることで、ブレードの荷重特性を変えている。
注目すべきはブレード寿命で、現行機の2,200時間に対し、R88では5,000時間を見込んでいるという。運航コストに直結する数字で、ユーティリティ機としては大きな訴求点になる。
低いLock number #
ローターのLock number(ブレードの空力と慣性の比を表す指標)を5〜6程度の低めに設定する。Lock numberが低いと慣性が相対的に大きくなり、オートローテーション特性が有利になる。これもヒューイ的な味付けだ。
加えて、ブレードの長寿命化に寄与するコーニング・ヒンジを組み込む。水平安定板は左右対称形とし、安全性を高める設計とされている。
マストバンピング対策 #
ティータリングローター機にとって避けて通れないのが、低G状態でのマストバンピングだ。R22/R44の死亡事故でもたびたび問題になってきた。
R88では以下を組み合わせて対策する。
- 4軸の先進飛行制御システム(AFCS)——低G保護機能つき
- Garmin GFC 600H オートパイロット
スミス氏は、これらによって低Gマストバンピングを緩和できると自信を見せている。ティータリングという枯れた方式を維持しつつ、電子的な保護で弱点を補うアプローチだ。
割り切ったトレードオフ #
シンプルな2枚ローターを選んだことで、当然ながら代償もある。スミス氏もそれを認めている。
振動
2枚ローター特有の「2/rev(1回転あたり2回)」の振動が出る。ロビンソンは部品から内製する垂直統合の強みを活かし、機体構造側で振動を抑え込むとしている。
騒音
多枚ローター機より騒音は大きくなる。これに対してはFADECを活用して複数のローター回転数設定を持たせ、状況に応じて使い分ける案を検討中という。
スミス氏の言葉を借りれば、設計の根底には「シンプルなほうが支えやすい(整備しやすい)」という思想がある。騒音に神経質な市場よりも、整備性とサポート性を重視する市場に向けた割り切りだ。
ヘリパイロットとして思うこと #
率直に言って、この設計は「思想がはっきりしている」点が面白い。
近年のヘリは多枚ローター・複合材ブレード・低騒音という方向に進んできた。その流れの中で、あえて2枚ティータリング+メタルブレードという“枯れた”構成を選び、弱点(マストバンピング)は最新のAFCSで補い、振動・騒音は割り切る——というのは明確な逆張りだ。
吊下げ作業が主戦場なら、俊敏さや静粛性より、ペイロード・整備性・ブレード寿命・オートロー特性のほうが効いてくる。5,000時間というブレード寿命は、現場のオペレーターにとって相当魅力的だろう。
もちろん、ティータリングである以上、低G回避の操縦規律は引き続き重要になる。電子保護があっても、基本は「プッシュオーバー(急な機首下げ)をしない」というヘリの鉄則は変わらない。実機が飛び、実運用データが出てくるのを楽しみに待ちたい。
出典:A deep dive into the R88’s main rotor system with Robinson CEO David Smith(Vertical Magazine)
ヒーロー画像は参考(同社のタービン機R66)です。R88とは別機種です。「G-HKCC Robinson R66 Helicopter」by James from Cheltenham / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0
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