大型機に「自律的遭難追跡装置(ADT)」の装備義務が追加——GADSS対応の最近の変更点

AIP Japan(GEN 3.6)に、自律的遭難追跡装置(ADT:Autonomous Distress Tracking Device)の装備義務が追加されました。航空機が遭難状態に陥ったとき、自動で位置を発信し続けて捜索を容易にする——という仕組みです。

結論から先に言うと、これはヘリコプターには直接関係しません(理由は後述)。ただ業界全体の流れとして、最近の変更点に軽く記録しておきます。


どんな装備か #

対象機は、飛行中に通常では想定されない速度・姿勢・降下率などを検知した場合に、1分に1回以上、自動的に位置を送信できる装置を備えなければなりません。これがADT、または同等機能を持つ自動ELT(救命無線機)です。

異常な挙動を引き金に「機体が勝手に位置を発信し続ける」点がポイントで、墜落や制御喪失の際でも、人手を介さずに機位を地上へ伝えられます。


対象機(ここが重要) #

項目内容
用途航空運送事業の用に供する飛行機
重量最大離陸重量が27,000kg超
時期最初の耐空証明が令和6年(2024年)1月1日以後

つまり対象は、比較的新しい大型の旅客・貨物機に限られます。


位置情報の受け皿:LADR #

ADTが発信した位置情報は、ICAOが運用する LADR(Location of an Aircraft in Distress Repository) という仕組みで集約・共有されます。遭難機の位置に関する情報を保存し、関係者が利用できるようにするデータベースです。

対象機を運航する事業者は、ADTからの位置情報を受け取るために、事前にLADRへ登録しておく必要があります。具体的には運航者の管理アカウント(Focal Point)を、ICAO([email protected])へメールで登録する流れです。


背景:MH370とGADSS #

この装備義務は、唐突に出てきたものではありません。2014年に消息を絶った**マレーシア航空370便(MH370)**の捜索が難航したことを大きな契機に、ICAOが進めてきた GADSS(Global Aeronautical Distress and Safety System/世界航空遭難安全システム) の一環です。

「大型機が遭難したら、確実にその位置を追えるようにしておく」という国際的な枠組みが、いよいよ国内のAIPにも具体的な装備要件として落ちてきた、という位置づけになります。


ヘリコプターとの関係 #

冒頭のとおり、今回の対象は 「航空運送事業用」「飛行機」「27,000kg超」 という三条件。ヘリコプターは——

  • そもそも飛行機ではない(対象は固定翼)
  • 民間ヘリで最大離陸重量27トンを超える機体はまず存在しない

ため、現時点でヘリは対象外です。私たちの日々の運航に直接の手続きが増えるわけではありません。

ただ、遭難時の自動位置発信という発想自体は、ヘリの世界でも**ELT(特に衛星で拾われる406MHz)**として既に身近なものです。「機体が自分の居場所を知らせ続ける」流れが大型機から制度化されていく動きは、頭の片隅に置いておいて損はないでしょう。


まとめ #

項目内容
何が変わった大型機にADT(自律的遭難追跡装置)の装備義務を追加
対象航空運送事業用・MTOM27,000kg超・耐空証明が2024/1/1以後の飛行機
仕組み異常検知時に1分1回以上、自動で位置発信/ICAOのLADRに集約
背景MH370を契機としたGADSS対応
ヘリは?対象外(飛行機かつ27t超が条件)

詳細はAIP Japan GEN 3.6および国土交通省航空局安全部安全政策課の案内を参照してください。


出典:AIP Japan GEN 3.6-7(自律的遭難追跡装置等の装備)/国土交通省 航空局 安全部 安全政策課

ヒーロー画像はイメージです(装備義務の対象となる大型機の例:ボーイング777-300ER)。「Boeing 777-300ER N2534U」by Acroterion / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0


関連記事 #

コメント

※ 名前を入力するだけでコメントできます(メールアドレスは任意)。 投稿いただいたコメントは管理者の承認後に表示されます。