「鳥衝突防止計画ガイダンス」という文書がある——トビは日本で最も危険な鳥種、と国が書いている

「鳥衝突防止計画ガイダンス」という文書がある——トビは日本で最も危険な鳥種、と国が書いている

運輸安全委員会の報告書を読んでいて、知らない文書の名前が出てきました。

「鳥衝突防止計画ガイダンス」。

調べてみると、これがなかなか面白い代物でした。紹介します。


きっかけ——航空大学校のG58とトビ #

まず、出典になった事故から。

航空事故調査報告書 AA2026-6-2(ホーカー・ビーチクラフト式G58型 JA5810)(令和8年7月10日議決)

項目内容
機体ホーカー・ビーチクラフト式G58型 JA5810(航空大学校
発生令和7年3月12日 10時55分頃、仙台空港付近
状況事業用(陸上多発)の限定変更訓練。RWY27で連続離着陸訓練中、高度約1,000ft・IAS 120〜130ktで北側場周経路を飛行中
損傷左主翼前縁外板のへこみ、サブ・スパーの変形=中破
負傷なし(機長および訓練生2名)
原因トビとの衝突

機長は左前方から向かってくる黒い点を見た直後に衝撃を感じています。報告書は、視認から衝突までが僅かで、回避は困難だったと推定しました。

鳥種は、仙台国際空港が羽根を調査機関に送ってDNA解析で特定しています。血痕と羽根から種を割り出すわけです。

そして、そのトビについて報告書はこう書いていました。全長59〜69cm、翼開長157〜162cm、体重870〜1,250g。衝突頻度が高く、体重が重く航空機の損傷率が高いことから、日本では最も危険な鳥種とリスク評価されている——出典として挙げられていたのが、このガイダンスです。

鳥衝突防止計画ガイダンスとは #

作っているのは、航空局が設置した鳥衝突防止対策検討会(平成14年設置、現在は「検討委員会」に改称)です。鳥の生態の専門家、運航者、空港管理者などで構成され、年1回開かれています。

目的は、各空港が効果的な鳥衝突防止計画を策定すること。つまりこれは、パイロット向けの資料ではなく、空港管理者向けの実務文書です。

中身は問題鳥種ごとのプロファイル集で、1種につき次の項目が並びます。

項目何が書かれているか
種名目・科・学名
分布繁殖地、渡り、国内での偏り
形態全長・翼開長、雌雄や幼鳥の見分け
生態出現時期、好む環境、群れの規模、食性
空港内の行動その空港環境で、いつどこに現れるか
防除対策具体的に何をするか
リスク評価どれくらい危険か
特記事項近年の傾向、注意すべき空港

図鑑ではありません。空港をどう運用するかの文書です。

たとえばトモエガモの項 #

令和7年3月の第23回検討委員会で、問題鳥種にトモエガモが追加されました。その改訂ページが公開されているので、実物の書きぶりが分かります。

生態の欄には、数十羽の群れが普通だが数万〜10数万羽の大群になることもある、夕方に周辺の水田へ移動して採食する、といったことが並びます。

そして防除対策が、こうです。

  • 大群は黒い雲のような群れとして比較的視認しやすいので、管制塔や操縦席等から群れの存在を探索する
  • 夜明けや日没の前後は薄暗く視界が悪いため、実包による追い払いを多用して衝突を阻止する。可能であればレーダー等の活用が望ましい
  • 空港内に採食場となり得るイネ科やスゲ科の広い草地をつくらない
  • 空港内に水環境がある場合、冬季はネットを張るなどして水面に近寄らせない

草の種類まで指定されています。鳥を追い払う話と、鳥が来ない環境を作る話が、同じ欄に並んでいるのが特徴的だと思いました。

リスク評価は「最も危険な鳥種の一つ」。特記事項には、近年日本への渡来数が急増していること、出雲空港と韓国の務安空港で衝突事例があることが書かれています。

毎年、種が足されていく #

このガイダンスは固定された文書ではありません。検討委員会が毎年、問題鳥種を追加して改訂しています。

開催改訂内容
第21回令和5年3月問題鳥種の追加
第22回令和6年2月ヒバリの追加、鳥衝突報告のデータ確定手順
第23回令和7年3月トモエガモの追加

第23回の総評で、委員長がこう述べています。渡来数が増えている種は、今後衝突の可能性が高まるおそれがあると。つまりこのガイダンスは、鳥の側の変化に合わせて更新されていく性格のものです。

なお、ガイダンスの全文はウェブで公開されていません。空港管理者向けの文書だからでしょう。ただし改訂で追加された種のページは検討委員会の資料として公開されるので、そこから中身を読むことはできます。過去の議事概要は航空局のサイトに並んでいます。

数字で見ると、今回の事故は珍しい #

検討委員会の資料と報告書から、統計を拾ってみます。

2024年の鳥衝突は1,647件、ニアミスが1,015件。月別では8〜10月がピークで、2024年は9月の207件が最多でした。時間帯は昼間が55%、夜間が30%です。

そして高度。令和4年1月から令和6年12月までの3年間で、運航者から報告された鳥衝突は4,607件でした。

衝突高度件数(3年間)
0ft(地上)2,332件
1,000〜1,500ft96件

過半数が地上での衝突です。離陸滑走中や着陸後を含む、地面すれすれの高度帯に集中しています。

トビに絞ると、もっと極端です。3年間で234件のうち、0ftが187件。そして1,000〜1,500ftはわずか3件でした。

今回の事故は、その3件と同じ種類の出来事だったことになります。

ヘリコプターの立場で読むと #

ここが本題かもしれません。

統計を見て思ったのは、鳥がいちばんいる高度帯を、ヘリは常用しているということです。

固定翼にとって0ftから1,500ftは、離陸と着陸で通り過ぎる区間です。滞在時間は短い。しかしヘリは、その帯を移動区間として使い続けます。場外への進入も、送電線の巡視も、報道の取材も、ドクターヘリの現場進入も、みなこの高度です。

にもかかわらず、ガイダンスは空港とその周辺を対象に作られています。空港の草丈を管理し、水面にネットを張り、実包で追い払う。空港の外を飛ぶヘリには、その保護は及びません。

もうひとつ。ガイダンスの「防除対策」には、管制塔や操縦席から群れを探索するという記述がありました。つまりこの文書は、パイロットの目も対策の一部として数えているわけです。

そう読むと、この文書の使いどころが見えてくる気がします。自分の運航エリアにどの種がいて、いつ、どこに、どんな群れで出るのか。それを知っておくことは、鳥を避けるための情報になります。トビの体重が870〜1,250gあると知っていることも、機体が壊れうる相手だという実感につながります。

とはいえ、今回の報告書は視認から衝突まで僅かで回避は困難だったと結論しています。見えてからでは間に合わない。事前に知っておく以外にないというのが、正直なところなのだと思います。

まとめ #

  • 鳥衝突防止計画ガイダンス」は、航空局の鳥衝突防止対策検討委員会(平成14年設置、年1回開催)が作成する、各空港が鳥衝突防止計画を策定するための文書
  • 中身は問題鳥種ごとのプロファイル。種名/分布/形態/生態/空港内の行動防除対策リスク評価/特記事項という構成で、図鑑ではなく空港運用の文書。
  • 防除対策は具体的。トモエガモの項では実包による追い払いイネ科・スゲ科の草地を作らない冬季は水面にネットを張るなどが挙がる。
  • 毎年、問題鳥種が追加されて改訂される(第22回=ヒバリ、第23回=トモエガモ)。全文は非公開だが、追加種のページは検討委員会資料として公開される。
  • トビは「日本では最も危険な鳥種」とリスク評価されている。全長59〜69cm、翼開長157〜162cm、体重870〜1,250g
  • きっかけは航空大学校のG58(JA5810)が令和7年3月12日、仙台空港の北側場周経路・高度約1,000ftでトビと衝突し中破した事故(AA2026-6-2)。負傷者なし。鳥種はDNA解析で特定。
  • 統計では2024年の鳥衝突1,647件、月別ピークは8〜10月。3年間4,607件のうち0ft(地上)が2,332件と過半。トビは234件中187件が0ft、1,000〜1,500ftは3件のみ
  • ヘリは、鳥がいちばんいる高度帯を常用している。一方でガイダンスの対策は空港とその周辺が対象で、空港の外には及ばない。

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本記事は、運輸安全委員会の航空事故調査報告書AA2026-6-2、および国土交通省航空局の鳥衝突防止対策検討委員会の公表資料をもとに、筆者が整理・紹介したものです。正確な記述は原文をご確認ください。報告書は特定の個人や団体の責任を問うために作成されたものではありません(運輸安全委員会設置法第5条)。ガイダンスの全文は公表されていないため、本記事の記述は公開されている改訂資料および報告書の引用に基づきます。統計は公表時点の速報値を含みます。

ヒーロー画像はトビ(Milvus migrans lineatus)です。“Milvus migrans lineatus (in flight)” by Alpsdake / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(本記事への掲載にあたりリサイズを行いました)


出典

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