災害時の救援航空機——「電話で許可申請」「包括的許可」が認められる仕組み
地震・豪雨・火災・噴火など、国内で大規模災害が発生したとき、ヘリコプターによる救援活動は被害規模を左右する決定的な要素になります。
しかし、ヘリ運航には通常、航空法に基づく事前許可が必要です:
- 第79条:空港等以外の場所での離着陸(場外離着陸)には許可が必要
- 第81条:最低安全高度以下の飛行には許可が必要
- 第89条:物件投下には届出が必要
平時にこれらを申請するには、書類提出 → 審査 → 許可書交付というステップを踏みます。しかし、人命がかかった災害現場で、この手続きを通常通り運用していたら、間に合いません。
この問題に対応するため、航空局は **「災害時に救援活動を行う航空機に係る許可手続等に関する処理要領」**を整備しています。本記事では、この通達の内容と意味を整理します。
① 通達の基本情報 #
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 災害時に救援活動を行う航空機に係る許可手続等に関する処理要領 |
| 制定 | 平成23年(2011年)10月20日(国空航第305号) |
| 直近の改正 | 令和6年(2024年)3月27日(国空安政第2949号、国空無機第238226号) |
| 施行日 | 令和6年3月29日 |
| 発出元 | 国土交通省 航空局長 |
東日本大震災を契機に整備され、その後も令和2年・4年・6年と段階的に改正されてきている、災害時の救援航空運航の根幹を支える通達です。
② どんな災害で適用されるのか #
通達が適用されるのは、以下のいずれかが満たされた場合です:
- 災害対策基本法 第24条第1項に基づく 非常災害対策本部 が設置された場合
- 同法 第28条の2第1項に基づく 緊急対策本部 が設置された場合
- その他、航空局長が必要と認めた場合
つまり、国レベルで「災害」と認定された事案が対象であり、小規模な救助では適用されません。
③ 通常 → 災害時の手続き比較 #
法第79条(場外離着陸の許可申請)/ 第81条(最低安全高度以下の飛行) #
| 項目 | 通常 | 災害時 |
|---|---|---|
| 申請方法 | 書面(事前提出) | 電話で申請可能 |
| 事前連絡 | 必須 | 困難な場合は事後速やかに連絡でよい |
| 申請書 | 提出必須 | 後日提出(申請日は電話連絡日として扱う) |
| 場所・回数の特定 | 必要 | 包括的許可申請が可能(後述) |
| 許可処分 | 書面 | 口頭でも可(許可書は速やかに交付) |
法第89条(物件投下届出) #
物件投下とは、機体から物資を地上に落とす行為(救援物資の空中投下、消火剤・水の投下など)を指します。
| 項目 | 通常 | 災害時 |
|---|---|---|
| 届出方法 | 書面 | 電話で届出可能 |
| 事前連絡 | 必須 | 困難な場合は事後速やかに連絡でよい |
| 届出書 | 提出必須 | 後日提出 |
| 場所・回数の特定 | 必要 | 包括的届出が可能 |
④ 「包括的許可・届出」とは何か——通達の核心 #
通常は、「いつ・どこで・何回」離着陸するかを特定して申請する必要があります。災害現場では、状況が刻々と変わるため、事前にこれらを特定するのは不可能です。
包括的許可・届出が認められる条件 #
通達は、航空法施行規則第176条各号に掲げる航空機を除く航空機の運航者(≒民間機の運航者)について、
救援活動を行う期間内における場外離着陸・最低安全高度以下の飛行・物件投下について、**具体的な場所・回数・その両方を特定しない包括的な許可申請(届出)**を行うことができる
としています。
ただし、誰にでも認められるわけではありません:
申請者の救援活動における実績等から、安全上問題がないと安全部安全政策課長が認めるときは、許可するものとする。
つまり、**「これまで救援運航を安全に行ってきた実績がある運航者」**に絞られています。これは合理的な仕組みで、未経験の運航者が災害現場で包括許可を盾に飛び回る、という事態を避ける構造になっています。
包括届出に必要な情報(物件投下の場合) #
① 届出をする者の氏名又は名称
② 公共機関の依頼により救援活動を行う場合は、その旨と公共機関の名称
③ 包括的届出である旨
これだけで届出が成立します。「どこで・何個落とすか」は事前特定不要——これが、災害対応速度を支える根幹的な簡素化です。
⑤ 規則第176条機(自衛隊・警察・消防防災ヘリ等)との関係 #
通達文中で繰り返し言及される「航空法施行規則第176条各号に掲げる航空機」とは、国・地方公共団体の航空機(いわゆる国家航空機)です:
- 自衛隊機
- 警察ヘリ
- 消防防災ヘリ
- 海上保安庁機
- その他、官公庁の運航機
これらはもともと別の法的枠組みで運航しており、本通達の包括的許可・届出規定の対象外です。
つまり本通達の核心は、民間運航者(朝日航洋・中日本航空・東邦航空などの使用事業者や、自家用運航者)が災害救援に参加する場合の手続きを大幅に簡素化する点にあります。
⑥ 通達の意義——なぜ重要なのか #
1. 初動を速くする #
災害発生の最初の数時間は、生死を分ける時間帯です。「許可申請に書類が必要」「審査に半日かかる」では、救える命を救えません。電話一本で運航開始できる仕組みが、この時間を確保してくれます。
2. 民間運航のパワーを取り込める #
国家航空機だけでは、大規模災害時のヘリ需要は満たせません。民間使用事業者・自家用運航者の協力を、可能な限り素早く取り込めるかが、被災地全体のヘリ救援能力を決めます。
3. 過去の教訓を制度化している #
東日本大震災(2011年)の経験から制定され、令和2・4・6年と継続的に改正されている点は重要です。「制度を作って放置」ではなく、運用しながら改善されてきた歴史があります。
⑦ 民間運航者として押さえておきたい点 #
平時から実績を積んでおく必要がある #
包括的許可・届出は **「実績等から認められる」**ものです。災害が起きてから「うちにも認めて」と言っても、実績がなければ通りません。
平時の救援訓練・防災訓練への参加、過去の災害支援運航の積み重ねが、いざというときの**「許可されやすさ」**を決めます。
連絡先・連絡フローを事前に確認しておく #
電話申請が認められると言っても、**「どこに電話するか」「誰に申請を上げるか」**を平時から把握していなければ、災害発生時に右往左往します。
通達では「安全部安全政策課長」が許可判断の中心になっています。所属している運航者は、内部の連絡フローを事前に整理しておくことが望ましいでしょう。
後日提出する書面の準備 #
**許可書(様式1〜4)/届出書(様式5)**は、後日提出が前提です。雛形を事前に把握し、災害時に迅速に書ける状態を作っておく必要があります。
⑧ 学生・若手パイロットへ——「救援運航」というキャリアの一面 #
学生や訓練中のパイロットには、**「将来こうした運航に関わる可能性がある」**という意識を持っておいてほしいと思います。
- 場外離着陸の判断
- 最低安全高度以下での飛行操作
- 物件投下(吊り荷・空中投下を含む)
これらは平時の事業用運航でも触れる技量ですが、災害現場ではさらに難易度が上がります。視程・気象・地形・地上の混乱・通信輻輳——あらゆる不確定要素のなかで、平時に身につけた基本動作を確実に出せることが求められます。
災害救援は、平時の運航の延長線上にある。
平時に積み上げた**「飛ばさない判断」「引き返す判断」**ができる人だけが、現場でも生き残り、救助を成立させられる。
これは、本ブログで何度も書いてきたメッセージとつながる話です。
まとめ #
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 国レベルで「災害」と認定された事案での救援運航 |
| 第79条/第81条 | 電話申請可能、口頭処分可、包括的許可可能 |
| 第89条 | 電話届出可能、包括的届出可能 |
| 包括許可の条件 | 救援活動の実績があり、安全部安全政策課長が認めること |
| 対象機 | 主に民間機(規則第176条機=自衛隊・警察等は対象外) |
災害時のヘリ救援は、現場のパイロット技量だけでなく、こうした制度の整備があって初めて成立します。普段は意識しない通達ですが、「いざ」のときに飛ぶ全運航者が知っておくべき基盤情報として、改めて押さえておきたい内容です。
参考:国土交通省 航空局「災害時に救援活動を行う航空機に係る許可手続等に関する処理要領」(平成23年10月20日制定/令和6年3月27日最終改正・令和6年3月29日施行)。航空法第79条・第81条・第89条、航空法施行規則第176条、災害対策基本法第24条第1項・第28条の2第1項。
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