下層悪天予想図とは——SFC〜FL150を網羅する小型機・ヘリ運航者の必須資料

ヘッダー画像:大きな積乱雲(Big Cumulonimbus)。撮影:Simon Eugster(Wikimedia Commons)/ライセンス:CC BY-SA 3.0 /本記事への掲載にあたり画像のリサイズを行いました。

下層悪天予想図(Low-level Significant Weather Chart)」——気象庁が提供している、地表(SFC)からFL150(15,000ft)までの航空運航リスクを、1枚の図に集約した予報資料です。

ヘリコプター・小型機・低高度運航者にとって、最も「必ず見るべき」資料のひとつ。

この記事では、

  • 下層悪天予想図とは何か
  • どんなデータから作られているか
  • 図の中に何が描かれているか
  • 高高度向けの「FBJP(国内悪天予想図)」との違い
  • パイロット視点での活用法

を整理します。


① 下層悪天予想図とは #

項目内容
正式名称下層悪天予想図(Low-level Significant Weather Chart)
提供元気象庁 大気海洋部
対象高度地表(SFC)〜FL150(15,000ft)
主な利用者小型機・ヘリ・低高度運航者
発表頻度1日8回(3時間ごと)
予報時間1時間先・4時間先・7時間先の3種類
対象範囲北海道・東北・東日本・西日本・奄美・沖縄

いまから数時間先、自分の運航高度で、どこにどんなリスクがあるか」を、視覚的に把握できる資料です。

作成方法 #

数値予報の計算結果から自動作成(画像化)したもの

——つまり、気象庁のスーパーコンピュータが計算したGSM/MSM等の数値予報モデルから、自動的に運航リスクを抽出して図化したものです。


② 使われているデータ——「数値予報」が源流 #

下層悪天予想図は、以下の数値予報モデルから生成されます:

1. GSM(全球モデル) #

気象庁の広域モデル。約20kmメッシュ、11日先まで。 広域の気圧配置・前線位置を取得。

2. MSM(メソモデル) #

5kmメッシュ・39時間先まで。 雲・降水・湿度などの詳細予報。下層悪天予想図の中核。

3. LFM(局地モデル) #

2kmメッシュ・10時間先まで。 山岳乱気流・対流発達の予測に貢献。

→ 関連記事:Windyの「Forecast Model」を使い分けようSCW(SUPERC WEATHER)の使い方

4. 観測データ(リアルタイム補正) #

  • 全国20か所の気象ドップラーレーダー
  • アメダス(全国1,300か所)
  • ウィンドプロファイラ(上空風)
  • ラジオゾンデ(高層気象観測)

→ 関連記事:アメダスの「中身」を知る

これらの観測 + 数値予報を統合解析した結果が、自動で図化されています。


③ 図に描かれている情報——9つの主要要素 #

下層悪天予想図には、以下の情報が1枚に集約されています。

1. 乱気流ゾーン #

  • 中程度(MOD)以上の乱気流が予想される領域
  • 高度範囲付きで表示(例:080/030 → FL030〜080の範囲)
  • 山岳波・低気圧周辺・前線付近で頻出

2. 降水・降雪エリア #

  • 雨(RA)・雪(SN)・霧雨(DZ)
  • 強度(軽・中・強)と分布範囲

3. 雷雨エリア(TS) #

  • 雷の発生が予想される領域
  • 積乱雲の発達を伴う激しい現象

→ 関連記事:「春の小さな嵐」を知っておく

4. 視程不良エリア #

  • 霧・もや・降水による視程低下
  • VFR運航では致命的な情報

→ 関連記事:「もう少しだけ」が命取り——霧の中のヘリコプター飛行

5. 雲域(雲頂・雲底) #

  • どの高度に、どんな雲が広がっているか
  • 雲頂高度・雲底高度の両方が表示
  • VFRで「雲の上に出る/下を通る」の判断材料

6. 0℃線(着氷高度の指標) #

下層悪天予想図の最大の強みのひとつ:

FL020・FL050・FL100 の各高度面における0℃ライン

——が描かれています。これは:

  • その高度面で、どこから北側が氷点下になるか
  • どこから着氷リスクがあるか

を一目で示します。

→ 関連記事:着氷(アイシング)の基礎

7. 主要空港の気象 #

  • 風向・風速
  • 気温
  • 湿度

——が、主要空港・主要高度(FL020/050/100)ごとに表示。

8. 前線・気圧配置 #

地上天気図の主要要素を同じ図上に重ねて表示

  • 寒冷前線・温暖前線・閉塞前線・停滞前線
  • 低気圧・高気圧の位置と進行方向

9. 特記事項(テキスト) #

  • 特殊な気象現象(雪雷・霧雨・雷など)
  • 火山灰
  • その他、図記号だけでは伝えきれない情報

④ FBJPとの違い——「下層」vs「中・高層」 #

気象庁が提供する航空向け悪天予想図には、2種類あります。

項目下層悪天予想図(本記事)FBJP(国内悪天予想図)
対象高度SFC〜FL150FL100〜FL450(中・高層)
主な対象小型機・ヘリ・低高度ジェット機・国内航空路線
予報時間1, 4, 7時間先約6時間先
含まれる情報雷雨・着氷・乱気流・視程・雲・0℃線ジェット気流・CAT・山岳波・積乱雲乱気流
更新頻度1日8回1日4回

つまり:

  • ヘリパイロット → 下層悪天予想図を主に見る
  • 航空路パイロット → FBJPも併用する

両方とも、飛行高度に応じた使い分けが必要です。


⑤ パイロット視点での活用法 #

1. 離陸前のブリーフィング #

  • 出発地・目的地・経路上のリスクを1枚で把握
  • 雷雨エリア・着氷高度・視程不良ゾーン
  • 経路の回避ルートを事前に検討

2. 代替地・引き返し判断 #

  • 目的地が悪天圏内に入りそうなら、代替地の予測も同時に確認
  • 4時間先・7時間先を見て、時間軸での悪化トレンドを把握

3. 着氷リスクの判定 #

  • **0℃線(FL020/050/100)**を見て、自分の飛行高度が氷点下に入るか
  • 雲との関係(雲中で氷点下=着氷可能性)

4. 乱気流回避 #

  • 中程度(MOD)以上の乱気流ゾーンと飛行ルートが交差するか
  • 山岳波の予測がある場合は高度・経路の見直し

→ 関連記事:R66が乱気流で空中分解

5. 公式情報としての性格 #

飛行場予報や台風予報等と異なる内容が含まれる場合がある」——気象庁が明記している通り、これは運航参考資料であって、最終判断にはMETAR/TAF実況との照合が必須です。


⑥ アクセス方法 #

下層悪天予想図は、気象庁公式サイトから無料で閲覧できます:

地域別(北海道/東北/東日本/西日本/奄美/沖縄)に選択して表示可能です。


⑦ 学生・若手パイロットへ #

下層悪天予想図は、**「読めるようになるまでに時間がかかる」**資料です。理由:

  • 多数の図記号
  • 略号(TS/RA/SN/FG等)
  • 高度表記(FL/AGL/AMSL)
  • 前線・気圧配置の意味
  • 0℃線の解釈

最初は、

  1. 記号の凡例を手元に置く
  2. 当日の実況(METAR・アメダス)と照合
  3. この記号は何を意味していたか」を毎回振り返る

——この繰り返しで読めるようになります。

**「読めるパイロット」と「読めないパイロット」**の差が、飛行判断の質を分けます。

地味な習慣ですが、訓練段階から毎日下層悪天予想図を眺めることを強くおすすめします。


雑感 #

下層悪天予想図は、地味だが極めて強力な資料です。

  • 数値予報を自動で図化してくれる
  • ヘリ・小型機の運航高度を完全カバー
  • 1日8回更新で短い時間スケールで使える
  • 無料で誰でも閲覧可能

日本の航空運航は、気象庁が裏側で支えている——それを最も実感できる資料のひとつ。

Windy、SCW、ナウキャストなど、民間サービスは便利ですが補助。下層悪天予想図は公式の運航判断資料として位置付けが違います。

この図を読めるパイロットになる」——これを、訓練段階の目標のひとつに据えると、現場での判断力が一段階上がるはずです。


まとめ #

要点内容
対象高度SFC〜FL150
対象機小型機・ヘリ・低高度運航者
更新頻度1日8回・1/4/7時間先予報
データ源数値予報(GSM/MSM/LFM)+観測(レーダー/アメダス/ゾンデ)
含まれる情報乱気流/降水/雷雨/視程/雲(頂・底)/0℃線/空港気象/前線・気圧
FBJPとの違いFBJPは FL100以上の中・高層対象
位置付け公式運航参考資料・METAR/TAFと併用

参考:気象庁「下層悪天予想図」公式(https://www.data.jma.go.jp/airinfo/data/awfo_low-level_sigwx.html )、気象庁「空域に関する気象情報」、JAPA「下層悪天予想図を提供しています」、日本気象(地球気)「FBJP解説」。本記事は2026年5月時点の公開情報をもとに整理した教育用記事です。


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