電波は「上空で使う」と話が変わる——携帯電話の上空利用を整理する

電波は「上空で使う」と話が変わる——携帯電話の上空利用を整理する

「スマホの電波なんて、どこで使っても同じだろう」——そう思っている人は多い。ところが電波は「上空で使う」となると、途端に話が変わる。旅客機では機内モードが求められ、ドローンやヘリで携帯回線を上空で使うには専用の手続きがいる。なぜか。

理由はひとつ。携帯電話は、地上で使うことを前提に作られているからだ。この記事では、携帯電波を軸に「上空で電波を使う」とはどういうことかを、①旅客機の中、②ドローン・無人機、③ヘリコプター、の順に整理していく。

なぜ上空の電波は「特別」なのか #

携帯電話の基地局アンテナは、地上にいる人に電波を届けるよう、少し下向き(ダウンチルト)に角度をつけて設置されている。電波を地表に集中させることで、限られた周波数を効率よく使い、隣の基地局との干渉を抑えるためだ。

この「地上向け設計」が、上空では裏目に出る。

  • つながりにくい:アンテナが下を向いているので、上空には本来あまり電波が飛ばない。高度が上がるほど通信品質は保証されなくなる。
  • 逆に拾いすぎる:高い場所では遮るものがないため、本来届かないはずの遠くの基地局を一度に何局も拾ってしまう。これが地上の通常利用への**混信(干渉)**の原因になる。
  • ハンドオーバーが追いつかない:旅客機の巡航速度では、端末が次々と基地局を探し続け、基地局の切り替え(ハンドオーバー)が間に合わない。つながらないまま電波の発射を繰り返し、バッテリーも急速に消耗する

つまり上空での携帯利用は、「使う本人がつながらない」だけでなく、「地上にいる大勢の通常利用に迷惑をかけうる」という、ネットワーク全体の問題なのだ。だからこそ、ルールが必要になる。

① 旅客機の中:機内モードと航空法 #

私たちが最初に「上空の電波」を意識するのは、旅客機の離着陸時だろう。

航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれのある携帯電話その他の電子機器を、正当な理由なく作動させる行為は、航空法第73条の4・航空法施行規則第164条の16で禁止されている。機長から「禁止命令」を受けてもなお続けた場合は、50万円以下の罰金の対象になる。

ポイントは「電源を切れ」ではなく「電波を出すな」という規制であること。だから**機内モード(無線通信をオフにした状態)**にすれば、スマホそのものは使える。2014年9月の制度見直し以降、機内モードの電子機器は飛行中も使用できるようになり、令和3年(2021年)3月には対象機器の定義を定めた告示も見直されている。

ざっくり整理すると、

  • 携帯回線(4G/5G)の通信:上空では原則オフ(=機内モード)。これは前章のとおり、地上ネットワークへの干渉を避けるため。
  • Wi-Fi・Bluetooth:機内Wi-Fiサービスを提供する便では、シートベルトサイン消灯後などに使用可。
  • 離着陸時:揺れに備え、機器を手放さない等の安全上の制限がかかる便もある。

要は、旅客機では「人は地上向けの電波を上空から出さない」という発想でルールが組まれている。では、上空でどうしても携帯回線を使いたいドローンやヘリはどうするのか。ここからが本題だ。

② ドローン・無人機での携帯「上空利用」制度 #

ドローンを目視外・長距離で飛ばすには、携帯回線(セルラー)でつなぐのが現実的だ。しかし前述のとおり、携帯端末を上空に上げると地上の利用に干渉しうる。そこで総務省は、「条件を満たせば、上空でも携帯端末を使ってよい」制度を段階的に整えてきた。

2016年:まずは「実用化試験局」から #

2016年7月、上空での携帯利用を実用化試験局の枠組みで可能にした。ただし個別に免許が必要で、手続きが重く、本格普及には向かなかった。

2020年12月:高度150m未満を簡素化 #

2020年12月、高度150m未満の空域について、一定の技術的条件に合う携帯端末は、簡素化した手続きで上空利用できるようにした。ドローンの実運用がぐっと現実的になった転換点だ。

2023年4月:高度150m以上も解禁 #

2023年4月からは、高度150m以上でも簡素化手続きで利用可能になった。対象となるのは800MHz帯・900MHz帯・1.7GHz帯・2GHz帯といった既存の携帯周波数で、利用者は携帯電話事業者に申し込めばよい。

2025年5月:ローカル5G・BWAまで #

さらに2025年5月、**ローカル5GやBWA(広帯域移動無線アクセス)**の端末も、無人航空機等に搭載して上空利用できるよう制度が拡張された。当初は学術・実証に限られていた5Gの上空利用が、商用の現場へと広がってきている。

手続きはどうなっているのか #

利用者から見ると、想像よりずっと軽い。

  • 上空利用に対応した専用SIMを携帯事業者から用意してもらえば、利用者側で電波法上の特別な準備は基本的に不要
  • 干渉対策はネットワーク側で担保する。基地局からの制御情報に基づき、上空端末の送信電力が最小限になるよう自動制御することで、地上の通常利用への影響を抑える。

「ユーザーは申し込むだけ、干渉対策はキャリアが受け持つ」——この役割分担が、上空利用を一般化させた肝だ。

③ ヘリコプターから見ると #

ここまではドローンの話に見えるが、制度上は「無人航空機等」が対象で、ヘリのような有人機での活用も視野に入る。現役パイロットとして、意味は小さくない。

  • 救急・防災ヘリの通信:山間部や災害現場では地上無線が届きにくい。携帯回線を補助的なデータリンクとして上空で正規に使えることは、現場の情報共有に効く。
  • EFB・データリンク:飛行中の気象更新、地図、運航データの授受。安定した上空回線は、紙からタブレットへ移った今のコックピットと相性がよい。
  • 空飛ぶクルマ(eVTOL):低空をネットワークでつなぐ前提の乗り物だ。携帯回線の上空利用が制度として整っていることは、その土台になる。

一方で、有人機のコックピットでの個人スマホの扱いは、旅客機と同じく「運航の安全を妨げない」が大原則だということは変えてはいけない。制度が認めるのは、あくまで機体システムとして正規に組み込まれた上空利用であって、「上空でも電波が解禁されたから何でも使っていい」ではない。ここを混同しないことが、現場では一番大事だと思う。

まとめ #

  • 携帯電話は地上向けに作られている。だから上空では「つながりにくい」と「干渉しやすい」が同時に起きる。
  • 旅客機では、航空法に基づき**電波を出さない(機内モード)**のが原則。違反には罰則もある。
  • ドローン等の上空利用は、総務省が段階的に解禁してきた——2016年の実用化試験局、2020年12月の150m未満簡素化、2023年4月の150m以上解禁、2025年5月のローカル5G・BWA追加。
  • 手続きは上空利用専用SIM+キャリア側の送信電力制御が肝。利用者の負担は軽い。
  • ヘリ・eVTOLにとっても、上空のデータリンクが「正規に使える」ことの意味は大きい。ただし安全最優先の原則は不変

電波は目に見えないぶん、「どこでも同じ」と思い込みやすい。でも、地上向けに最適化された携帯電波を上空に持ち込むときだけは、別のルールがいる——それを知っておくだけで、機内モードの意味も、空飛ぶ未来の土台も、少し見え方が変わるはずだ。

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出典

画像出典:Wikimedia Commons “Cell tower aerial” by Wikideas1(CC0 / パブリックドメイン)

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