第5管制業務処理規程に新設された用語——新旧対照表から読む令和8年3月改正
滑走路占有監視支援機能の警報追加に関して、「何が変わったか」を紹介した記事はすでに公開しています(こちら)。
今回は別の切り口で——新旧対照表(国空制第521号 別添)を直接読んで、第5管制業務処理規程に何の「用語」が加わったのかを整理します。
改正の全体像:何ページが差し替わったか #
差替指示表によると、今回差し替えられたのは以下の4セクションです(改正番号149)。
| 項目 | 差替枚数 | 対象ページ |
|---|---|---|
| 改正表 | 2枚 | 改正番号1〜149 |
| 目次 | 5枚 | p.7〜15 |
| Ⅰ 総則 | 10枚 | Ⅰ-3〜Ⅰ-22 |
| Ⅲ(Ⅲ) 飛行場管制方式 | 1枚 | (Ⅲ)-2-13 |
実質的な内容変更はⅠ総則(定義)と、飛行場管制方式の1ページ((Ⅲ)-2-13)に集中しています。
変更①:Ⅰ総則 2定義——用語の新設 #
新旧対照表で旧(現行)側を見ると「(新設)」と記されている箇所が1ブロックあります。
新設された定義:「滑走路占有監視支援機能」 #
滑走路占有監視支援機能
(Runway incursion monitoring support function)
TAPSの音及び表示により、航空管制官に注意を喚起し、
又は警報を通知する機能であって、次に掲げるものをいう。
a 注意喚起
航空機又は車両が滑走路を使用している状態で、
他の航空機又は車両が当該滑走路に進入しようとする
状態を検知し、注意喚起音及び注意喚起表示を通知する機能。
b 滑走路占有警報
滑走路上における航空機同士又は航空機と車両の衝突の
危険が切迫した状態を検知し、警報音及び警報表示を
通知する機能。
この定義は今回の改正で初めて規程に明文化されました。新設の理由は備考欄に明記されています——「滑走路占有監視支援機能に係る規定の新設に伴う定義の新設」。
つまり、機能そのものは以前から存在していましたが、処理規程上の定義規定がなかった状態だったということです。
加わった用語を整理すると #
| 用語 | 英名 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 滑走路占有監視支援機能 | Runway incursion monitoring support function | 新設 | 機能全体の定義 |
| 注意喚起 | — | 新設(サブ機能 a) | 進入しようとする状態の検知・通知 |
| 滑走路占有警報 | — | 新設(サブ機能 b) | 衝突危険が切迫した状態の検知・通知 |
注意喚起と滑走路占有警報は別の機能として定義が分けられている点が重要です。意見照会の回答でも「注意喚起は『警報』とは別の機能」と明示されており、同一視しないよう求めています。
変更②:Ⅲ(Ⅲ) 飛行場管制方式 2管制許可等——条項の新設と管制用語 #
目次の変化を見ると、旧側に「(新設)」とある箇所に新側では次の項目が加わっています:
(20) 滑走路占有監視支援機能に関する措置 ···· (Ⅲ)-2-13
条項(20)全体が新設です。この中で定められている管制用語は3つあります。
用語① GO AROUND(復行) #
★復行してください。
GO AROUND.
用途:警報内容が「GO AROUND」のとき、対象となる到着機に復行を指示する。
付帯規定:「(12)によらず、滑走路上での衝突の危険の回避を確認するまでの間、以後の飛行方法について指示しないものとする」
つまり通常の復行指示と異なり、危険回避が確認されるまで次の指示を出さないという特別な制約が設けられています。
「GO AROUND」自体は既存の管制用語ですが、警報発報時の使用文脈として明示的に規定されたのは今回が初めてです。
用語② STOP IMMEDIATELY(緊急停止) #
★緊急停止、〔航空機無線呼出符号〕緊急停止。
STOP IMMEDIATELY, [repeat aircraft identification] STOP IMMEDIATELY.
用途:警報内容が「STOP IMMEDIATELY」のとき、対象となる出発機に緊急停止を指示する。
付帯規定:「この場合、離陸許可は自動的に取り消される」
「STOP IMMEDIATELY」も既存の管制用語ですが、従来の規定(Ⅲ 2 (8)b)は「管制官の判断で発出する」場面を想定したもの。今回新設の(20)b(b)は「警報の内容に従い、管制官の判断を伴わず、速やかに指示する」という性格が異なります(意見照会 No.38 への回答より)。
閾値(意見照会 No.35 への回答):
「STOP IMMEDIATELY」の警報は、離陸滑走を開始したことを検知した時のみに発報。停止状態の出発機には発報しない。
用語③ RUNWAY INCURSION(ランウェイ・インカージョン)【完全新設】 #
★滑走路〔番号〕ランウェイ・インカージョン、
滑走路〔番号〕ランウェイ・インカージョン。
RUNWAY〔number〕 RUNWAY INCURSION,
RUNWAY〔number〕 RUNWAY INCURSION.
用途:警報内容が「RUNWAY INCURSION」のとき、一方送信により情報を提供する。
「GO AROUND」「STOP IMMEDIATELY」との大きな違い:
- (a)(b) は管制指示(相手機に従う義務がある)
- (c) は情報提供(パイロットの自主的な回避行動を促すもの)
この用語は第5管制業務処理規程で初めて規定された、完全に新しい管制用語です。
発動タイミングの閾値(意見照会 No.36 への回答):
| 対象機 | STOP / GO AROUND → RUNWAY INCURSION への切り替わり |
|---|---|
| 出発機 | 離陸滑走開始後、100ノット到達時 |
| 到着機 | 進入端上空通過後〜接地までのいずれかの時機 |
なお、AIPには「情報提供は、(1)(2)の管制指示に航空機が従うことができる時機をすでに過ぎた後に提供される」と注釈が記載されています。
表記統一:小さな変更も見逃せない #
備考欄に「表記の統一」とある変更も1箇所あります:
| 旧 | 新 |
|---|---|
| 滑走路停止位置(Runway-holding point)……位置。 | 滑走路停止位置(Runway-holding point)……位置をいう。 |
定義規定の末尾を「をいう。」で統一するためのもので、内容に変更はありません。
補足:「RUNWAY INCURSION」は定義に載せないのか #
意見照会 No.40(JAPA)でまさにこの疑問が提起されています。
「RUNWAY INCURSION」という管制用語が新設されるが、定義に規定する必要はないか。」
航空局の回答:
「『RUNWAY INCURSION』は警報音及び警報表示の内容であり、【滑走路占有監視支援機能に関する措置】において説明されていることから、定義には規定しておりません」
あくまで警報の「内容」として位置づけられているため、定義条文への収録は見送られた、という整理です。
加わった用語の全体まとめ #
| 場所 | 用語 | 区分 |
|---|---|---|
| Ⅰ総則 2定義 | 滑走路占有監視支援機能 | 定義・新設 |
| Ⅰ総則 2定義 | 注意喚起(サブ機能 a) | 定義・新設 |
| Ⅰ総則 2定義 | 滑走路占有警報(サブ機能 b) | 定義・新設 |
| Ⅲ(Ⅲ)2(20)(a) | GO AROUND | 管制用語・新規適用文脈 |
| Ⅲ(Ⅲ)2(20)(b) | STOP IMMEDIATELY | 管制用語・新規適用文脈 |
| Ⅲ(Ⅲ)2(20)(c) | RUNWAY INCURSION(ランウェイ・インカージョン) | 管制用語・完全新設 |
パイロット視点から #
第5管制業務処理規程は管制官側の規程であり、パイロットの手順書ではありません。しかし、管制官が何の用語をどう使うかを知ることは、実運航で役に立ちます。
特に「RUNWAY INCURSION」は今回初めて規定された用語です。このコールを受けたとき、それが「管制指示」ではなく「状況認識のための情報提供」であること——すなわち、「従うべき指示」ではなく「自ら状況を判断して行動すべき局面」であることを、パイロット側も理解しておく必要があります。
AIPのNote(AD 1.1-48)にも明記されています:
The purpose of the information in (3) is to encourage the aircraft and other vehicles to take actions for collision avoidance as appropriate to the situation on their own initiative.
管制官が動ける局面は終わった——あとはパイロット自身が判断する。そのサインが「RUNWAY INCURSION」です。
出典:国空制第521号 別添(新旧対照表・意見照会回答)、AIP Japan AD 1.1(EFF: 19 MAR 2026)、JAPA掲載資料
ヒーロー画像:「Runway incursion」 by Federal Aviation Administration / Wikimedia Commons / Public Domain(FAA-H-8083-25C より)
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