台風の進路を、15のモデルで一度に見る——GPV Weather「各国モデルの台風進路予想」
台風のとき、気象庁の進路予報を見ます。中心の点と、予報円と、暴風警戒域。あれは1本の進路です。
でもその裏では、世界中の数値予報モデルが何十本もの進路を計算しています。それをまとめて1枚の地図に重ねているサイトを教えてもらいました。
GPV Weather「各国モデルの台風進路予想」
https://www.gpvweather.com/typmodels.php
開くと、太平洋がスパゲッティのような線で埋まります。最初に見たときは、正直なところ何を見ればいいのか分かりませんでした。
そこで凡例を全部ほどいてみたところ、15のレイヤーのうち、ほぼ半分が2025年に運用化されたばかりのAIモデルでした。今回はその中身と、読み方を整理します。
何が重なっているのか #
情報メニューを開くと、チェックボックスがずらりと並びます。中身はこうでした。
4つの機関から、15本の系統です。
| 機関 | 何者か |
|---|---|
| ECMWF | ヨーロッパ中期予報センター。世界でいちばん精度が高いとされる全球モデル |
| NCEP | 米国。GFS・GEFSの本家 |
| CMC | カナダ気象センター |
| FNMOC | 米海軍の艦隊数値気象海洋センター |
米海軍のモデルまで並んでいるのは、ちょっと驚きました。
線の太さが、いちばん大事なルール #
このサイトのコードを読んでみると、線の太さは2種類しかありません。
| 太さ | 意味 |
|---|---|
| 太い線(3.0) | 決定論モデル、またはアンサンブルの平均 |
| 細い線(0.5) | アンサンブルの1メンバー |
ここが分かると、地図の見え方が変わります。
細い線を1本追いかけても意味がありません。あれは「初期値をちょっとだけ変えて計算したら、こうなった」という51通りのうちの1本です。ECMWFのアンサンブルなら51メンバー、NCEPのAIアンサンブルなら31メンバー。
見るべきは束の広がりのほうです。
- 束が細くまとまっている——各モデルが同じ答えに収束している。方向は、ほぼ決まっている
- 束が扇のように開いている——まだ決まっていない。「決めない」という判断の根拠になる
気象庁の予報円が大きいか小さいかも同じことを表していますが、どちらの方向に割れているのかまで見えるのは、こちらだけです。
半分が「AIモデル」だった #
凡例を分解していて、いちばん驚いたのがここでした。15本のうち6本がAIベースのモデルです。しかもどれも、この1年で運用化されたばかりでした。
ECMWF AIFS #
ECMWFの AIFS(Artificial Intelligence Forecasting System)は、
- 決定論版が2025年2月に運用化
- アンサンブル版(AIFS ENS)が2025年7月1日に運用化。50の摂動メンバー+1つのコントロールで、解像度は約30km
物理ベースのIFS ENSが約9kmなので、解像度はかなり粗い。それでもECMWF自身の評価では、上空の変数で最大25%の改善があったとしています。
NOAAの3兄弟 #
米国側はもっと新しくて、2025年12月17日12UTCのサイクルから3つが同時に運用化されました(Service Change Notice 25-89)。
| モデル | 中身 |
|---|---|
| AIGFS | AIベースの決定論全球モデル |
| AIGEFS | AIベースのアンサンブル(31メンバー) |
| HGEFS | AIGEFSと現業GEFSv12を合わせた62メンバーのハイブリッド(各31メンバー) |
注目したのは、そのベースです。
The models are based on Google DeepMind’s GraphCast model.
AIGFSとAIGEFSは、Google DeepMindのGraphCastがベースだと、NWSの公式通知に明記されています。NCEPがNOAAの研究所とEPIC(Earth Prediction Innovation Center)と共同で開発したもので、Project EAGLEという取り組みから出てきました。
計算コストの差も強烈です。
16日先までの予報1回が、現業GFSの0.3%の計算資源で、約40分で終わる。
さらにAIGEFSは、従来のGEFSより予報スキルが18〜24時間分延びたとされています。
HGEFSが1本の太線でしか描かれない理由も、通知を読むと分かりました。HGEFSはensstat(平均とスプレッド)しか配信されていないのです。メンバーごとのデータが外に出ていないので、細い線が引けない。
ただし、AIモデルには明確な弱点がある #
ここは、鵜呑みにしないために書いておきます。ECMWF自身がAIFS ENSについて挙げている限界です。
- 極端な降水を著しく過小予測する(2023年のStorm Hansの事例)
- 10m風速では、物理ベースのIFS ENSのほうが依然として優秀
- 7日より先の2m気温は性能が落ちる
- 乾燥域で微量の偽の降水が出る
- 複雑地形上の海面気圧に異常値が出ることがある
10m風速が弱いというのは、運航者にとって小さくない話です。つまり——
AIモデルの線は「どこへ行くか」を見る材料にはなるが、「どれくらい荒れるか」を読む材料としては、まだ物理モデルに劣る。
台風の進路の束を見る道具として使い、強さや風の見積りは気象庁の予報に戻る——この分け方がいいと思います。
操作のポイント #
実際に触ってみて、押さえておくと便利だったところです。
① 情報メニューの「Single ON」 #
地図の上にある「情報メニュー」を開くと、レイヤーのチェックボックスと一緒に3つのボタンがあります。
- All ON——全部表示
- Single ON——1つだけ表示
- All OFF——全部消す
初見でいちばん役に立つのは Single ON です。全部出すと本当に何も見えないので、まずECMWF_IFS_ENSだけにして束の形を掴み、そこから足していくのがおすすめです。
② 時刻スライダーと再生 #
地図の上部にスライダーがあり、「マーカー日時」が動きます。右下に再生ボタン(◀◀ ◀ ▶ ▶▶ ↻)があって、時間を進めながら束がどう広がっていくかをアニメーションで見られます。
束は先に行くほど広がります。その広がり方の速さが、そのまま不確実性の増え方です。
③ 自分の基地に円を描く #
これがいちばん実務的だと思いました。距離を示す円を任意の地点に置けます。
- 地図をクリック →「ここに円」
- または右上の「〇」ボタン
教えてもらったURLにも、すでに東京を中心に500kmと1000kmの円が仕込まれていました。
やることは単純です。自分の基地に円を描いて、束がその円に入る時刻を読む。束が細ければ「何日の何時ごろ」と読めますし、広ければ「26日夜から28日朝までのどこか」としか読めない。その幅こそが、いま分かっていることの限界です。
④ 熱帯擾乱発生の可能性(GTH) #
情報メニューのいちばん上に「熱帯擾乱発生の可能性(GTH)」という項目があります。これは進路ではなく、これから台風が生まれるかもしれない領域を、週単位で色づけしたものです。
筆者が見た日は「09/30〜10/06(09/22時点)」「10/07〜10/13(09/22時点)」の2週分が選べました。まだ台風になっていない段階から、次の週の備えを考えるのに使えます。
⑤ URLが、そのまま設定の保存になる #
このサイトはURLのパラメータに表示状態を全部入れています。
| パラメータ | 意味 |
|---|---|
la / ln | 地図の中心(緯度・経度) |
z | ズーム |
b | ベースマップ |
ci | 円。n経度_緯度,半径1,半径2(km) |
i | 表示するレイヤーのビットマスク(数値を2進数にして、1桁ずつレイヤーのON/OFFに対応) |
つまり、自分の基地に円を描いて、見たいモデルだけ選んだ状態をブックマークしておけば、次からはそれが開きます。台風シーズンに毎回設定し直す必要がありません。
⑥ 擾乱ごとに分けたページもある #
同時に複数の台風があると、全部が1枚に重なって判別できなくなります。そのために、擾乱ごとに分けたページが用意されています。
/typmodel_ecmwf_ens.php——ECMWF IFSアンサンブル/typmodel_ecmwf_aifs_ens.php——ECMWF AIFSアンサンブル/typmodel_jma.php——気象庁台風進路予測図/typmulti.php——各国の台風進路予想/typlink.php——各国の台風関連リンク集
サイト自身の但し書きが、いちばん大事 #
ページの冒頭に、赤い字でこう書いてあります。
このページで公開しているデータは数値予報の結果そのままのものもあり、精度の低いデータが含まれる場合があります。 実際の進路予報は〔気象庁の予報〕を利用してください。
これは飾りではありません。
気象庁の台風進路予報は、複数のモデルを見比べたうえで、予報官が判断して1本にまとめたものです。その過程では統計的な補正(ガイダンス)も入りますし、過去の似た事例との照合もある。
一方このページに出ているのは、その手前の、生の計算結果です。
だから使い分けはこうなります。
| 知りたいこと | 見るもの |
|---|---|
| どこに、いつ、どれくらいの強さで来るのか | 気象庁の予報 |
| その予報が、どれくらい確からしいのか | このページの束の広がり |
ヘリの運航で、どう効くか #
正直に言うと、当日や翌日の運航判断に、このページはほとんど関係ありません。その時間帯は気象庁の予報のほうが確実に精度が高い。
効くのはもっと手前です。
3日後から1週間先の予定を、動かすかどうか。整備の入れ方、機体の避難、乗員の手配、依頼元への連絡——このあたりは早めに決めたいけれど、早く決めすぎると空振りになる。
束が細く収束していれば、早めに動く根拠になります。束が広ければ、「まだ決めない」と言う根拠になります。
「まだ分からない」と「まだ決まっていない」は違います。後者は、地図を見れば分かる。そこがこのページの価値だと思いました。
あとひとつだけ。細い線が自分の基地を通っていても、慌てなくていいということも覚えておきたいです。あれは51分の1です。
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出典 #
- GPV Weather「各国モデルの台風進路予想」——レイヤー構成・色と線幅の定義・操作系・URLパラメータは、2026年9月26日に筆者が実際に開いて確認しました
- ECMWF「ECMWF’s AI forecasts become operational」(2025年2月)
- ECMWF Newsletter 185「AIFS ENS becomes operational」——メンバー数・解像度・改善幅・限界
- NOAA/NWS「Service Change Notice 25-89: Implementation of AIGFS, AIGEFS, and HGEFS」(2025年12月9日発出・12月17日実施)——GraphCastベースであること、メンバー数、配信仕様
- NOAA「NOAA deploys new generation of AI-driven global weather models」——計算コストとスキル延伸
本記事は2026年9月26日時点の内容に基づきます。サイトの仕様やレイヤー構成は変更される可能性があります。実際の防災判断は、必ず気象庁の台風情報をご利用ください。
ヒーロー画像:「Super Typhoon Chaba churns away in the western Pacific Ocean while Typhoon Aere passes over Taiwan」by NOAA(Wikimedia Commons / パブリックドメイン)。掲載にあたり切り抜きとリサイズを行いました。
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