東京でいちばん雨が多いのは9月と10月——秋雨前線の季節の飛び方
以前、梅雨明けの記事で「夏は油断できない」と書きました。その夏が終わって、今度は秋雨の季節です。
「梅雨に比べれば大したことない」と思っていたのですが、平年値を調べたら、そうでもありませんでした。
東京の最多雨月は、10月と9月 #
気象庁の平年値(1991〜2020年)を並べてみます。
| 月 | 東京 | 福岡 |
|---|---|---|
| 6月 | 167.8mm | 249.6mm |
| 7月 | 156.2mm | 299.1mm |
| 8月 | 154.7mm | 210.0mm |
| 9月 | 224.9mm | 175.1mm |
| 10月 | 234.8mm | 94.5mm |
東京は、9月と10月が年間で最も雨の多い月です。梅雨の6月・7月より多い。
そして福岡はきれいに逆で、7月が突出して10月は最少クラス。東京の10月(234.8mm)と福岡の10月(94.5mm)では2.5倍の差があります。
「梅雨は西日本、秋雨は東日本」とよく言われますが、平年値を見ると本当にそのとおりでした。関東で飛んでいる人にとって、秋は梅雨より雨が多い季節だということになります。
秋雨前線とは何か #
夏の間、日本を覆っていた太平洋高気圧が、8月の後半あたりから南へ退きはじめます。入れ替わりに、北からオホーツク海高気圧や移動性高気圧といった冷たい空気が張り出してくる。
この二つがぶつかったところにできる停滞前線が、秋雨前線です。
気象庁の予報用語では「秋雨」は、8月後半頃から10月頃にかけて、北日本から西日本で降る長雨とされています(地域差あり)。秋の長雨、秋霖(しゅうりん)とも呼ばれます。
なお天気予報の文面では「秋雨」という言葉はあまり使われず、「くもりや雨の日が多い」といった表現になります。解説の中で使われる用語、という位置づけです。
梅雨前線と、どう違うか #
同じ停滞前線ですが、性格はけっこう違います。
| 梅雨前線 | 秋雨前線 | |
|---|---|---|
| 時期 | 5〜7月 | 8月後半〜10月 |
| 前線の動き | 南から北上していく | 北から南下していく |
| 勢力の方向 | 太平洋高気圧が強まる過程 | 太平洋高気圧が弱まる過程 |
| 雨が多い地域 | 西日本 | 東日本 |
| 終わり方 | 前線が北へ抜けて梅雨明け | 前線が南下・消滅して本格的な秋へ |
押している側が違うのがポイントだと思います。梅雨は夏の空気が北へ押し上げていく途中の前線で、秋雨は秋の空気が南へ押し下げていく途中の前線。
そして秋雨前線は、押し合いながら日本の上を行ったり来たりします。これが「長雨」になる理由で、飛ぶ側から見ると後で書くように厄介なところでもあります。
10月の中頃になると太平洋高気圧がさらに南下して消え、冷たい高気圧だけが残って、秋雨前線も終わります。
台風が絡むと、桁が変わる #
秋雨の季節でいちばん警戒すべきはここです。
台風の接近が最も多いのは9月で、秋雨前線の時期とちょうど重なります。そして厄介なのは、台風が直接来なくても大雨になることです。
台風が南にあると、その周りを回る暖かく湿った空気が前線に供給されます。前線がそれを受けて活発化し、台風本体からはるかに離れた場所で大雨が降る。
気象庁が例に挙げているのが2005年9月4日です。台風14号は沖縄の東にありました。それでも暖湿気の流入で発達した雷雲により、東京や埼玉で1時間100mmを超える猛烈な雨が降り、7,000棟を超える浸水被害が出ています。
「台風はまだ沖縄だから」は、秋雨前線があるときには通用しません。
飛ぶ側から見た秋雨 #
ここからが本題です。夏の空とは、気をつけるところが変わります。
抜けられない #
夏の積乱雲は、乱暴に言えば避けられます。点在しているので、迂回するか待つかで何とかなることが多い。
秋雨前線の雨は違います。層状の雲が面で覆うので、迂回する先がない。雲底が下がって視程が落ち、その状態が広い範囲で何時間も続きます。VFRで飛ぶ立場からすると、こちらのほうが手強いというのが実感です。
前線が動くので、朝と午後で条件が変わる #
秋雨前線は南北に動きます。朝ダメでも午後に空くことがあるし、その逆もある。
「今日は一日ダメ」と決めつけないほうがいい代わりに、朝に見た予想を鵜呑みにするのも危ないということでもあります。動く前線なので、最新のものを取り直す価値が夏より高いと思っています。
山のガス #
雲底が下がると、尾根が抜けられなくなります。平地の視程は問題なくても、山側だけ塞がっているという状況が秋雨では頻繁に起きます。
高度を下げて谷沿いに、という判断が一番危ないパターンなので、引き返す線を先に決めておくしかありません。
朝霧 #
雨で地面が湿ったあと、夜間に晴れて放射冷却が効くと、朝に霧が出ます。秋雨の合間はこの条件が揃いやすい。
離陸できても帰ってこられない、という形で効いてくるので、朝いちばんの出発は目的地より出発地の回復時刻のほうが問題になることがあります。
日が短くなるのが、思ったより速い #
見落としやすいのがこれです。国立天文台の暦によると、東京の日の入りは
- 9月1日:18時09分
- 9月30日:17時27分
1か月で42分早くなります。夏の感覚のまま「まだ明るいだろう」と考えていると、薄暮に捕まります。雨で雲が厚い日は、さらに暗くなるのが早い。
密度高度は、楽になる #
いい話もひとつ。気温が下がるので密度高度は下がり、機体の性能は戻ってきます。夏に効いていた制限が緩むぶん、ホバリングや山岳での余裕は増えます。
ただし、気温が下がるということは着氷高度も下がるということです。高いところへ上がる予定があるなら、そちらは意識しておきたいところです。
見ておくとよい資料 #
秋雨の時期は「面で覆う雲」と「動く前線」が相手なので、点の情報より面と時系列が効きます。このブログで扱ったものだと、この3つが使えます。
加えて、NOTAM Mapの地図にも気象庁ナウキャストを重ねられるようにしてあるので、雨雲の1時間先まではそこでも確認できます。
まとめ #
- 気象庁の平年値(1991〜2020年)では、東京の最多雨月は10月(234.8mm)と9月(224.9mm)で、6月(167.8mm)・7月(156.2mm)を上回る。
- 福岡は逆に7月(299.1mm)が突出し、10月は94.5mm。「梅雨は西日本、秋雨は東日本」は平年値どおり。
- 秋雨前線は、南へ退く太平洋高気圧と、北から張り出す冷たい高気圧の間にできる停滞前線。時期は8月後半〜10月。
- 梅雨前線が北上する過程の前線なのに対し、秋雨前線は南下する過程の前線。押し合いながら日本上空を行き来するため長雨になる。
- 台風の接近は9月がピーク。台風が遠くても、暖湿気が前線に供給されて大雨になる。2005年9月4日は台風が沖縄の東にあった状態で、東京・埼玉で1時間100mm超、浸水7,000棟超。
- 飛ぶ側から見ると、夏の積乱雲と違って面で覆うので迂回できない。一方で前線が動くため朝夕で条件が変わる。
- 山のガス・朝霧に注意。朝の出発は目的地より出発地の回復が問題になることがある。
- 日の入りは1か月で42分早くなる(東京、9月1日18:09→9月30日17:27)。夏の感覚のままだと薄暮に捕まる。
- 密度高度は楽になるが、着氷高度は下がる。
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本記事は気象庁および国立天文台の公表資料に基づき、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。運航判断は必ず最新の公式気象情報でご確認ください。
ヒーロー画像はイメージです(乱層雲と、その下にちぎれて浮かぶ片乱雲)。“Nimbostratus pannus” by GerritR / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(本記事への掲載にあたりリサイズを行いました)
出典
- 気象庁「過去の気象データ検索 平年値(年・月ごとの値)」東京・福岡(1991〜2020年平年値)
- 気象庁「季節ごとの平年の天候についてのコラム「秋の降水」(関東甲信地方)」
- 気象庁 予報用語「秋雨」
- 国立天文台「暦計算室 日の出入り(東京・2026年9月)」
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