VFRでGPSを使う基準——「補助的に使用し」と、貼らなければならない標識
前回、群馬県防災ヘリ「はるな」の事故報告書を読み直しました。そのなかで、再発防止策に書かれた一文を紹介しています。
GPS装置に依存せず、有視界気象状態を維持して早期に引き返す判断をするよう機会あるごとに周知することが重要
では、VFRでGPSを使うことについて、国はどういう基準を置いているのか。調べてみると、その答えはわずか3ページの通達に、驚くほど明確な形で書かれていました。
まず、VFR用とIFR用は別の通達 #
最初に整理しておきます。GPSの使用基準は2本立てです。
| サーキュラー | 件名 | 分量 | |
|---|---|---|---|
| VFR用 | 5-006 | GPSを有視界飛行方式に使用する運航の実施基準 | 3ページ |
| IFR用 | 5-005 | GPSを計器飛行方式に使用する運航の実施基準 | 9ページ・11章 |
同じGPSでも、まったく別の通達で規律されています。今回はVFR用(5-006)を読みます。
制定は平成9年12月5日。平成19年9月27日、平成23年6月30日と改訂され、現行版は令和4年4月1日一部改正(国空航第3099号・国空機第1186号)・同日適用です。発出者も安全部長から安全部安全政策課長に変わっていますが、位置算定誤差0.124NM以下、24時間の地上試験、5回のフライオーバー、標識の貼付といった中身は変わっていません。
なお、国交省サイトの通達PDFはその日付時点のスナップショットです。現行条文は航空安全情報管理・提供システム(ASIMS)のサーキュラー情報管理にあるものが正となります。
目的の一文に、すべてが表れている #
第1章の冒頭です。ここだけで、この通達の性格が決まります。
本実施基準は、航空機が有視界飛行方式にGPSを補助的に使用し、運航する場合の衛星航法装置、運航方法の基準等を定めることを目的とする。
「補助的に使用し」。
主たる航法手段ではない、と目的の一文で明言されています。VFRは外を見て飛ぶ方式であり、GPSはそれを補助するもの——この位置づけが、通達の出発点に置かれているわけです。
前回の事故報告書にあった「GPS装置に依存せず」という表現は、この通達の思想をそのまま言い換えたものだと分かります。依存するなという注意喚起である以前に、制度上そもそも補助的な位置づけなのです。
装置に求められる技術基準 #
第2章は装置要件です。原則として、米国FAAの技術基準(TSO)を取得していることが求められます。
| 装置区分 | 求められるTSO |
|---|---|
| 独立型衛星航法装置 | TSO-C129 または TSO-C146(以後の改訂版を含む) |
| マルチセンサー装置 | TSO-C115b、航法センサーとして TSO-C145 |
あるいは航空法施行規則第14条第1項の承認を取得していること。これらを取得していない装置については、少なくとも第3章の技術基準に適合しなければならない、とされています。
第3章:TSOを持たない装置に課される技術基準 #
ここで適用範囲に注意が要ります。第2章の末尾はこう締めくくられています。
…取得していることを原則とするが、これらTSO又は装備品等仕様承認を取得していない衛星航法装置にあっては、少なくとも第3章の技術基準に適合しなければならない
つまり第3章は、TSOを取得していない装置に向けた要求です。TSO-C146などを持つ装置は、装置単体の性能をTSOが担保しているため、以下の数値を改めて検証する必要はありません(後述する第4章の切り分けのとおり、機体との適合性に関する3-5〜3-8項だけを確認します)。
そのうえで、TSO未取得の装置に何が課されるかを見ると、短い通達ながら具体的な数字が入っています。
位置算定誤差
衛星航法装置の位置算定誤差は95%確率で0.124NM以下でなければならない
0.124NMは約230mです。そして、この値を満たすことを実際に検証しろと求めています。
- 地上試験:静的地上試験により、最大5分のサンプル間隔で連続24時間の位置算定を実施
- 飛行試験:測量された地点の上空を少なくとも5回、低空直上飛行し、その座標と算定結果を比較(座標はWGS-84でなければならない)
24時間の連続測定と5回の直上飛行。紙の上の承認ではなく、その機体に付けた状態で確かめろ、という要求です。
その他の要件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 装備 | 正常時のほか、作動不良・故障の際にも他の装備品や航法機器に悪影響を及ぼさないこと |
| 電気的雑音 | 他の機器に悪影響を与える雑音を発生しないこと |
| ソフトウェア | RTCA DO-178B のレベルD を満足すること |
| 航法情報源の表示 | HSIやCDIに他の航法源も入力される場合、いまどれを選択しているかを示す表示装置を計器付近に備えること |
| 警報 | 機能不良・故障時に適切な警報表示。RAIM機能を有する装置でRAIMが喪失した場合は、その旨の表示装置を適切な場所に |
| 自動操縦・FDへの接続 | 偏位出力・操舵出力を持ち接続する場合、飛行試験で適切な操舵応答を検証すること |
| 最大運用速度 | 超過禁止速度(VNE)まで機能が保証されること |
航法情報源の表示とRAIM喪失の表示が要求されている点は、実務として重要だと思います。いま自分が何を見ているのか、そしてそれが信用できる状態なのか——この2つを、装置側で示させる設計になっています。
第4章:装備するときの手続き #
新規装備か既装備か、TSO取得の有無かで、4通りに分かれます。共通して求められるのは修理改造検査による適合確認と、飛行規程への記載です。
そして前章で触れたとおり、TSOの有無で確認範囲が変わります。
| 状況 | 求められること |
|---|---|
| 新規装備・TSO取得済 | 修理改造検査で3-5〜3-8項(機体との適合性)と耐空性審査要領への適合を確認+飛行規程に必要事項を記載 |
| 新規装備・TSO未取得 | 修理改造検査で第3章の技術基準全部と耐空性審査要領への適合を確認+飛行規程に記載 |
| 既装備・適合確認済 | 飛行規程に必要事項を記載 |
| 既装備・未確認 | 技術基準と耐空性審査要領への適合を確認+飛行規程に記載 |
TSOを取っていれば機体との適合性(3-5〜3-8)だけでよく、取っていなければ第3章全部を確認する——という切り分けです。
3-5〜3-8は「その機体に付けたときの話」です。装置がどれだけ正確かではなく、他の計器と混同しないか、故障を知らせるか、自動操縦に繋いだとき正しく動くか、VNEまで保証されるか。装置単体の性能はTSOに任せ、国は機体との組み合わせを見る——役割分担が明確です。
第5章:貼らなければならない標識 #
そして、この通達でいちばん印象的なのが最後の章です。
衛星航法装置が第4章の確認を得た場合には、当該衛星航法装置の使用は有視界飛行方式に限られることを飛行規程第2章限界事項に定めるとともに、次の標識を操縦士の見やすい場所に貼付しなければならない。
本GPS装置は有視界飛行方式での使用に限る 又は 本衛星航法装置は有視界飛行方式での使用に限る
飛行規程の「限界事項」に書く。そして、操縦士の目の前に貼る。
限界事項というのは、その機体で守らなければならない制限が並ぶ章です。速度限界、重量限界、運用高度限界——そこと同じ扱いで「VFR限定」が入る。
しかも書くだけでは足りず、物理的に貼れと求めています。目に入るところに、常に。
補足:TSO適合機器はどこで調べるか、そして「持っている」は何を意味するか #
ここまで読むと、「では自分の機体のGPSはTSOを持っているのか」が気になります。調べ方を整理しておきます。
米国側(TSO) #
TSO承認(TSOA:TSO Authorization)の情報は、現在FAAのDynamic Regulatory System(DRS)に統合されています。かつて av-info.faa.gov にあった「TSO Approvals」検索は廃止され、DRSへ移行しました。
ただし、DRSは規制文書のデータベースであって製品カタログではありません。「TSO-C146適合機器を機種名で一覧する」という使い方には向いていません。
実務で早いのは、メーカーの公表資料です。装備マニュアルや仕様書に、取得しているTSO/ETSOが列挙されています。GTNシリーズのように航法・COM・NAV・ILS等を統合した機器は、1機種で十数個のTSOを持つのが普通です。自社製品のTSO検索を公開しているメーカーもあります。
日本側(施行規則14条1項の承認) #
本通達が言う「航空法施行規則第14条第1項の承認」は、装備品等の型式承認・仕様承認を指します。有効なものは航空安全情報管理・提供システム(ASIMS)で確認できるとされています。
なお、2022年6月施行の航空法改正で予備品証明制度は廃止され、現在は認定事業場(法第20条第1項)による基準適合の確認に一本化されています。
そして、ここが肝心 #
FAAは明記しています。TSOAは設計と製造の承認であって、装備して使用してよいという承認ではないと。(TSOAは米国メーカーにのみ発行され、他国メーカーは二国間協定に基づく枠組みになります。)
この通達の構造に戻すと、責任が三層に分かれているのが分かります。
| 何を保証するか | 誰が担保するか |
|---|---|
| 装置単体の性能(位置算定誤差など) | TSO、または施行規則14条1項の承認 |
| その機体に付けたときの適合性(3-5〜3-8項) | 修理改造検査 |
| 使ってよい範囲 | 飛行規程の限界事項+標識 |
つまり——TSOを持っていることは、入口の条件にすぎません。
その先に修理改造検査があり、飛行規程への記載があり、最後にあの標識が貼られる。「TSO付きだからそのまま使える」ではないわけです。
そして三層すべてを通り抜けても、最後に残るのは「有視界飛行方式での使用に限る」という一行です。どれだけ立派な承認を積み重ねても、行き着く先はそこ——この通達は、そういう作りになっています。
パイロットとして思うこと #
この通達を読んで感じたのは、基準の作り方が正直だということです。
VFR用のGPSに対して、国は性能を要求していないわけではありません。位置算定誤差0.124NM、24時間の地上試験、5回の飛行試験、DO-178BレベルD、RAIM喪失表示——きちんと数値と手順を課しています。
そのうえで、「補助的に使用し」と目的に書き、限界事項に載せ、標識を貼らせる。
つまりこういうことだと思います。ちゃんと動くことは求める。しかしそれは、外を見なくていい理由にはならない。
装置の精度と、その装置に許される役割は、別の話です。230mの精度で位置が分かることと、雲の中を飛んでよいことは、まったく繋がっていない。
前回の群馬の事故報告書で、私は「知っていることと、見えていることを混同しない」と書きました。この通達は、その混同を制度として防ごうとしている——標識を貼らせるところまでやるのは、そういうことだと理解しています。
ちなみに、いま多くの機体で使われているタブレットのアプリは、この通達が対象とする「衛星航法装置」ではありません。修理改造検査も飛行規程への記載も経ていない、携行品です。位置は出ますし便利ですが、制度上の位置づけは、この標識よりさらに外側にあることは意識しておきたいところです。
次に自分の機体に乗るとき、その標識が貼ってあるかどうかを見てみてください。貼ってあるなら、そこには「限界事項」としての意味があります。
まとめ #
- GPSの使用基準はVFR用(サーキュラー5-006)とIFR用(5-005)で別々。VFR用は全4ページと短い。制定は平成9年12月5日、現行版は令和4年4月1日一部改正・同日適用(国空航第3099号・国空機第1186号)。
- 目的の一文に「有視界飛行方式にGPSを補助的に使用し」と明記。主たる航法手段ではないという位置づけが出発点。事故報告書の「GPS装置に依存せず」は、この思想の言い換え。
- 装置は原則TSO-C129/C146(独立型)、TSO-C115b+C145(マルチセンサー)。未取得なら第3章の技術基準に適合が必要。
- 第3章の技術基準は「TSO未取得の装置」に対する要求。位置算定誤差は95%確率で0.124NM(約230m)以下で、検証は連続24時間の静的地上試験(最大5分間隔)と測量点上空を5回以上の低空直上飛行(座標はWGS-84)。TSO-C146等を持つ装置は、この検証は不要。
- ほかに、故障時に他機器へ悪影響を与えないこと、電気的雑音を出さないこと、ソフトはDO-178B レベルD、航法情報源の選択表示、RAIM喪失時の表示、自動操縦/FD接続時は飛行試験で操舵応答を検証、VNEまで機能保証。
- 装備時は修理改造検査と飛行規程への記載が必要。TSO取得済なら機体適合性(3-5〜3-8項)、未取得なら第3章全部の確認。
- 確認を得たら、飛行規程第2章「限界事項」にVFR限定を定め、さらに「本GPS装置は有視界飛行方式での使用に限る」という標識を操縦士の見やすい場所に貼付しなければならない。
- 読み取れる思想は、性能は要求する。ただしそれは外を見なくていい理由にはならない、ということ。位置が分かる精度と、許される役割は別。
- TSO適合機器の調べ方:TSOA情報はFAAのDRS(旧av-infoの検索は廃止)に統合。ただし製品カタログではないため、実務ではメーカーの装備マニュアル・仕様書が早い。日本側の型式承認・仕様承認はASIMSで確認(2022年6月に予備品証明制度は廃止され認定事業場による確認へ一本化)。
- 重要なのは、TSOAは設計・製造の承認であって装備・使用の承認ではないこと。責任は①装置性能=TSO ②機体との適合=修理改造検査 ③使用範囲=飛行規程+標識の三層に分かれる。TSOを持っていることは入口の条件にすぎない。
- なおタブレットのアプリ等は、この通達の「衛星航法装置」ではない(修理改造検査も飛行規程記載も経ていない携行品)。制度上の位置づけはさらに外側。
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本記事は、国土交通省航空局のサーキュラー等の公開情報をもとに、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。基準は改訂される可能性があり、要約は理解のためのものです。特定製品が保有するTSOは改訂版の別を含めて変わり得るため、必ずメーカーの最新資料でご確認ください。実際の装備・運用にあたっては、必ず最新の原文および当該機の飛行規程をご確認ください。
出典
- 国土交通省航空局 サーキュラー No.5-006「GPSを有視界飛行方式に使用する運航の実施基準」(平成9年12月5日制定、令和4年4月1日一部改正/国空航第3099号・国空機第1186号)※現行条文は航空安全情報管理・提供システム(ASIMS)のサーキュラー情報管理に収録 https://asims.cab.mlit.go.jp/fsdb/a_circular.nsf/bc2af3923a3cb575492574fd002dd5df/60d7389338c275f6492578c400432aba/$FILE/5-006.pdf
- 国土交通省航空局 サーキュラー No.5-005「GPSを計器飛行方式に使用する運航の実施基準」(令和7年3月13日最終改正/国空安政第2879号) https://asims.cab.mlit.go.jp/fsdb/a_circular.nsf/bc2af3923a3cb575492574fd002dd5df/7f822a92532d0ee5492578c400431cc6/$FILE/5-005.pdf
- FAA “Dynamic Regulatory System (DRS)“(TSO本文・TSOA等の情報基盤) https://drs.faa.gov/
- FAA “Technical Standard Orders (TSO)“(TSOAは設計・製造の承認であり装備の承認ではない旨) https://www.faa.gov/aircraft/air_cert/design_approvals/tso
- 国土交通省「航空機及び装備品等に対する証明制度」 https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000070.html
- 国土交通省「令和元年航空法改正による航空機装備品・部品の安全規制の変更について」(予備品証明制度の廃止) https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk11_000002.html
- 運輸安全委員会 航空事故調査報告書 AA2020-1(JA200G。GPS装置の使用に関する記述) https://jtsb.mlit.go.jp/aircraft/rep-acci/AA2020-1-2-JA200G.pdf
画像出典:Wikimedia Commons “F-HGRU Airbus H125 helicopter cockpit Ardèche Fev 2024” by Kakoula10(CC BY-SA 4.0)。イメージ画像(ヘリコプターのコックピット)。
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