東京で37日連続の雨——2026年9月の長雨は、過去の長雨と同じ気圧配置だったのか
9月の初めに秋雨前線の記事を書き、10日には「9日で、ひと月分が降った」と書きました。結局、その雨は月末まで止みませんでした。
東京都心は、9月1日から30日まで毎日、降水を観測しました。1か月間毎日というのは、観測史上初めてです。
これだけ続くと、「過去の長雨も同じような気圧配置だったのか」が気になります。気象庁の解説と過去の観測値を並べて確かめました。
先に結論を書いておきます。
「前線が本州付近に居座る」という形は、過去の長雨と同じです。ただし、今年は暖かく湿った空気が南から入り続けたため、「日数も多く、量も多い」雨になりました。過去の長雨の多くは、そのどちらか一方でした。
何が起きたのか——数字で確認 #
まず東京都心(気象庁の観測点「東京」)の9月の値です。
| 項目 | 2026年9月 | 比べるもの |
|---|---|---|
| 月降水量 | 696.5mm(平年比310%) | これまでの最多は1958年の670.9mm |
| 降水を観測した日 | 30日すべて | 1か月毎日は観測史上初 |
| うち1mm以上の日 | 20日 | |
| うち10mm以上の日 | 15日 | |
| 連続降水日数 | 37日(8月27日〜10月2日) | これまでの最長は2019年6月27日〜7月29日の33日 |
| 日照時間 | 45.8時間 | 平年126.7時間の約36%。最少は1988年の39.2時間 |
「降水を観測した日」には、降水量0.0mm(0.5mm未満のわずかな降水)の日も含みます。連続降水日数はこの数え方によるものです。
地域全体で見ても記録的でした。気象庁によると、東日本太平洋側の9月の降水量は平年比236%で、地域ごとの統計を始めた1946年以降で最多です(これまでは1982年の182%)。日照時間は平年比46%で最少でした(これまでは1988年の54%)。
全国153の気象台等のうち、12地点で9月の月降水量の記録が更新されています。
| 地点 | 降水量 | 平年比 | これまでの最大(年) |
|---|---|---|---|
| 水戸 | 641.0mm | 344% | 439.5mm(1897) |
| 館野 | 542.0mm | 289% | 530.2mm(1929) |
| 銚子 | 677.5mm | 313% | 535.8mm(1925) |
| 東京 | 696.5mm | 310% | 670.9mm(1958) |
| 石廊崎 | 653.5mm | 351% | 584.5mm(1982) |
| 網代 | 834.5mm | 316% | 540.5mm(1954) |
| 横浜 | 785.5mm | 325% | 609.0mm(1897) |
| 館山 | 1092.0mm | 492% | 509.5mm(1982) |
| 勝浦 | 1010.5mm | 411% | 638.2mm(1929) |
| 大島 | 1933.0mm | 566% | 1138.5mm(1982) |
| 三宅島 | 1292.0mm | 390% | 998.7mm(1957) |
| 千葉 | 771.5mm | 377% | 403.5mm(2015) |
出典:気象庁 報道発表(2026年10月1日)表1
館山は平年の約5倍、大島は約5.7倍です。これまでの最大値のほぼ2倍を出した地点もあり、「記録をわずかに超えた」という更新ではありません。
2026年9月の気圧配置——気象庁の解説 #
気象庁は10月1日の報道発表で、大気の流れを次のように説明しています。要素は4つです。
- 偏西風が強かった——日本の東の海上を中心に、偏西風が平年よりかなり強くなりました。本州付近は上昇気流が起きやすい場所になりました。
- 東の高気圧と、大陸の高気圧に挟まれた——日本の東の海上には、太平洋高気圧と一体になった強い高気圧が居座りました。一方で大陸からは秋の高気圧が張り出し、本州付近で南北の気温差が大きくなりました。この配置が月を通して現れ、秋雨前線が本州付近から動けなくなりました。
- 南から暖かく湿った空気が入り続けた——太平洋高気圧の縁と、日本の南の海上にある大規模な低圧部の東側に沿って、暖かく湿った空気が流れ込み続けました。そのため前線の活動が非常に活発になりました。
- 台風が重なった——台風第25号は太平洋高気圧の縁に沿って、関東の南の海上を北東へ進みました。上旬には台風第24号、下旬には第26号も前線に湿った空気を送り込んでいます。
気象庁の模式図では、南の海上の大規模な低圧部に「上旬はモンスーンジャイア」と添えられています。モンスーンジャイアは、熱帯の海上にできる直径数千kmにもなる大きな低気圧性の循環です。その中や縁で台風が生まれやすく、大量の水蒸気を北へ運ぶ通り道にもなります。
なお、気象庁の今回の発表は「似た気圧配置の過去の年」を挙げていません。過去の年が出てくるのは、記録の比較(1982年・1988年)の中だけです。
そこで以下では、過去の記録の持ち主を観測値と当時の解説で比べることにしました。型の分け方は筆者の整理です。
過去の「記録の持ち主」と比べる #
東京の観測値を並べます。2019年だけは、連続降水日数の前回記録をつくった7月の値です。
| 月降水量 | 日降水量の最大 | 1mm以上の日 | 10mm以上の日 | 日照時間 | 主な原因 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026年9月 | 696.5mm | 156.0mm(21日) | 20日 | 15日 | 45.8時間 | 停滞前線+暖湿流+台風 |
| 1958年9月 | 670.9mm | 371.9mm(26日) | 13日 | 7日 | 132.6時間 | 狩野川台風 |
| 1982年9月 | 371.5mm | 167.5mm(12日) | 12日 | 7日 | 104.3時間 | 台風第18号+前線 |
| 1988年9月 | 251.5mm | 65.0mm(25日) | 18日 | 9日 | 39.2時間 | 前線停滞・冷夏の年 |
| 2019年7月 | 193.0mm | 39.0mm(14日) | 17日 | 7日 | 81.1時間 | 梅雨前線+オホーツク海高気圧 |
出典:気象庁「過去の気象データ」(東京)の日別値・月別値から筆者集計。1980年代半ばより前の日照時間は観測に使った日照計の種類が異なるため、厳密な比較はできません。
並べると、過去の長雨は大きく2つの型に分かれます。
台風一発型——1958年・1982年 #
1958年9月の670.9mmは、それまでの9月の最多記録でした。ただし、そのうち371.9mmは9月26日の1日で、狩野川台風によるものです(この371.9mmは、今も東京の日降水量の観測史上1位です)。1mm以上の日は13日しかなく、日照時間も132.6時間ありました。
1982年9月も似た構図です。東日本太平洋側の平年比182%は、今年に破られるまでの記録でした。東京では12日の167.5mmが大きく、これは台風第18号の日です。台風第18号は12日夕方に御前崎付近に上陸し、東日本を縦断しました。本州の南岸に停滞していた前線も、台風の北上とともに北へ動いたと記録されています。それでも1mm以上の日は12日で、晴れる日も多くありました。
どちらも月の合計は多いものの、長雨というより「大雨の日がある月」です。
冷湿型——1988年・2019年7月 #
1988年9月は、日照時間の記録の持ち主です。東京は39.2時間で、今年の45.8時間より少なく、今も最少記録です。
気象庁の記録では、この年は7月中・下旬にオホーツク海高気圧が強く、北海道から関東の太平洋側を中心に低温が続きました。9月も前線が日本付近に停滞しやすく、東北南部から関東を中心に曇りや雨の日が続いています。秋田地方気象台の資料には「本州の南に秋雨前線が停滞」とあります。
ところが降水量は251.5mmで、1日の最大も65.0mmでした。雨の日は多いものの、一回の雨は強くなかったわけです。冷夏の年の続きとして、低温と日照不足が9月まで続いたと見るのが自然です。
2019年7月は、今年まで連続降水日数の記録(33日)を持っていました。気象庁は、オホーツク海高気圧からの冷たく湿った空気と、本州の南岸付近に停滞した梅雨前線を原因に挙げています。東京では7月5日から12日まで8日連続で最高気温が25℃未満でした。1日の最大はわずか39.0mmで、典型的な「しとしと続く」長雨です。
今年は、2つの型が重なった #
今年の9月をこの2つと比べると、特徴がはっきりします。
- 雨の日の数は冷湿型並み(1mm以上が20日)
- 雨の量は台風一発型を上回る(696.5mm)
- しかも1日の最大は156.0mmで、1958年の371.9mmの半分以下
最後の点が大事です。今年の696.5mmは、1日の大雨で稼いだ数字ではありません。10mm以上の雨が15日あり、それが積み重なった結果です。この「10mm以上の日」は、表のほかの年がどれも7〜9日なのに対し、今年はその約2倍でした。
前線が居座る点は冷湿型と同じです。違うのは、前線を止めていたのが北からの冷たい空気ではなかったことです。東の強い高気圧と大陸の高気圧による挟み込みで前線が止まり、その前線に南から暖かく湿った空気が入り続けました。だから、冷湿型の「日数」と台風型の「量」が同時に出た、と読めます。
ひとつ気になる共通点もあります。1988年は8月中・下旬に、伊豆諸島近海から東シナ海にかけての北緯30度付近に低圧部がよく現れていたと記録されています。今年の「南の海上の大規模な低圧部」と少し似ています。ただし1988年9月の天気図を一枚ずつ比べたわけではないので、同じ配置だったとまでは言えません。
飛ぶ側から見た、2つの型の違い #
型が違うと、飛ぶ側が困る中身も変わります。
冷湿型は「低い雲が晴れない」 #
オホーツク海高気圧からの冷たく湿った風が太平洋側に吹き込むと、低い層雲と霧雨が何日も続きます。雨量は少なくても、雲底が低く、山が隠れます。VFRのヘリにとっては、雨の強さより雲底と視程が長く上がらないことのほうが厄介です。
暖湿型は「層状の雨の中に強い雨が埋まる」 #
今年のように前線に暖かく湿った空気が入り続けると、一面の雨雲の中に発達した雨雲が紛れ込みます。9月上旬には東海地方などで線状降水帯も発生しました。曇天で見通しが悪いうえに、その先に強い雨域が隠れている形です。METARや目的地の予報だけでなく、XRAINなどのレーダーや下層悪天予想図で、面として見る必要があります。
どちらも「待てば空く」が効かない #
型は違っても、前線が居座るあいだは数日待っても天気が変わりません。今年は37日です。訓練や整備の計画を「晴れ間待ち」で組むと、ひと月が丸ごと動かなくなります。前線が居座りそうな配置が見えた時点で、週単位で予定を組み直すほうが現実的です。
気象庁は、10月は前線が居座りやすい状態が解消に向かい、天気が数日の周期で変わる見込みとしています。秋らしい周期変化に戻れば、「待てば空く」が再び効くようになるはずです。
まとめ #
- 2026年9月、東京都心は30日すべてで降水を観測しました。月降水量696.5mm(平年比310%)は観測史上最多で、連続降水日数37日は統計開始以来の最長です。日照時間は45.8時間で、平年の約36%でした。
- 気象庁の解説では、強い偏西風・東に居座る優勢な高気圧・大陸の秋の高気圧の配置が月を通して現れ、前線が本州付近から動けなくなりました。そこに南の大規模な低圧部の縁から暖かく湿った空気が入り続け、前線が非常に活発になりました。
- 過去の記録の持ち主は、2つの型に分かれます。台風一発型(1958年・1982年)は量は多いが日数は少なく、冷湿型(1988年・2019年7月)は日数は多いが一回の雨は弱い、という違いです。
- 今年は前線が居座る点では冷湿型と同じでした。ただし前線を止めたのは北からの冷気ではなく、東西の高気圧による挟み込みです。そこに暖湿流が加わり、10mm以上の日が15日と、ほかの年の約2倍になりました。
- 気象庁は似た気圧配置の過去の年を挙げていません。型の分け方は、観測値と当時の解説にもとづく筆者の整理です。
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出典 #
- 気象庁 報道発表「9月の東日本太平洋側の記録的な多雨・日照不足と今後の見通しについて」(2026年10月1日)——表1・図2・大気の流れの特徴
- 気象庁「過去の気象データ検索」——東京の日別値・月別値(1958年9月、1982年9月、1988年9月、2019年7月、2026年8〜10月)、平年値(1991〜2020年)
- 気象庁 報道発表「7月の天候」(2019年8月1日)
- 気象庁「昭和63年夏の低温、長雨、多雨と日照不足」(災害をもたらした気象事例)——7月・8月・9月の概況
- 秋田地方気象台「1988年7月~10月 低温・日照不足」(秋田県の自然災害)
- 新潟地方気象台「昭和57(1982)年台風第18号と前線による9月11日から13日にかけての大雨」
- 日本気象協会 tenki.jp「2026年9月天候まとめ」——連続降水日数の期間
本記事は2026年10月9日時点のデータに基づきます。模式図は筆者が気象庁の解説をもとに簡略化して作成したもので、気象庁の図ではありません。
ヒーロー画像:「Shibuya -rainy day」by ivva イワヲ(Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0)。雨の渋谷駅前。掲載にあたり切り抜きとリサイズを行いました。
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