IFRで通信機が故障したら——7600の次に、経路・高度・降下開始時刻をどう決めるか
呼んでも返ってこない。周波数を確かめ、10秒待って呼び直しても、静かなまま。
IFRで飛んでいる最中に通信機が落ちたとき、何をどう決めるのか。
この手順は、航空法施行規則第206条(通信機の故障の場合の航行)に条文として書かれています。「〜が望ましい」ではなく「次に掲げる方法に従わなければならない」という書き方です。
最初の分かれ道は、VMCかどうか #
条文の一号が、いちばん大事だと思います。
一 有視界気象状態にある場合(略)は、有視界気象状態を維持して飛行を継続し、安全に着陸できると思われる最寄りの空港等に着陸し、かつ、その旨直ちに管制業務を行う機関に通報すること。
VMCなら、降りる。
IFRの経路や高度の話に入る前に、まずここです。IFRを続けようとしない。見えているなら、見えているうちに、安全に降りられる最寄りへ。
以降の二号から四号は、VMCで最寄りに降りるのが困難な場合、又はIMCの場合の話になります。
7600は、指示を待たずに自分で入れる #
管制方式基準の別表2「二次レーダー一般コード」に、こうあります。
| 対象航空機 | コード |
|---|---|
| 不法妨害を受けている航空機 | 7500 ※ |
| 通信機故障の航空機 | 7600 ※ |
| 緊急状態にある航空機 | 7700 ※ |
注 ※印は、管制機関の指示を待たずに航空機が自動的にONにする。
許可を求める相手がいないのだから、当然といえば当然です。
IMCの場合①——どこを飛ぶか #
二 イ (略)承認を受けた航路に従つて、(略)目的地の上空(目的地へ進入する地点として特定の航空保安無線施設又は地点が指示されている場合は、その上空)まで飛行すること。 ただし、故障前の指示により承認を受けた航路から一時的に逸脱している場合は、最寄りの位置通報点(故障前の指示により、承認を受けた航路に戻る地点が明らかにされている場合は、当該地点)において、承認を受けた航路に戻り、その後、当該承認を受けた航路に沿つて飛行すること。
ベクターの最中に落ちたら、最寄りのフィックスで航路に戻る。戻る地点を指示されていたなら、そこへ。
なおAIM-Jは、向かう先を「管制承認限界点の上空」と表現しています。
IMCの場合②——高度と速度、そして7分と20分 #
ここが、条文だけでは数字が出てこない部分でした。
二 ロ 故障前の指示による高度又は(略)最低の高度のいずれか高い高度及び当該故障前の指示による速度を維持して国土交通大臣が定める時間まで飛行し、その後、通報した飛行計画による高度及び速度を維持して飛行すること。 ただし、故障前の指示により、着陸のための降下を指示されている場合は、故障前の指示による高度等を維持して飛行すること。
まず高度。「最後に指示された高度」と「最低高度(MEA・MCA・MRA)」の、高い方を維持します。
そして「定める時間」。AIM-Jが、これを空域で分けています。
| 空域 | 起算点 | 時間 |
|---|---|---|
| レーダー管制業務が行われている空域 | 7600にセットした時刻、又は指定高度/最低高度に到達した時刻のいずれか遅い方 | 7分 |
| それ以外 | 義務位置通報点での通報ができなかった時点 | 20分 |
レーダーに映っているなら7分、映っていないなら20分。
見えている分だけ、早く動いてよい。管制官がこちらの高度と位置を把握できているなら、周りを捌く時間は短くて済む——そういう設計です。逆に映っていなければ、位置通報が来ないという事実をトリガーに、たっぷり20分見る。
実際に使うのは、7分のほうだけ #
表には2つ並びますが、こちらが使うのは上の行だけです。
日本国内でIFRを飛ぶ分には、レーダー覆域外という状況はまず生じません。20分側の起算点が「義務位置通報点で通報できなかった時点」であることが、そのまま性格を表しています。位置通報を頼りに間隔を確保する環境——条文には書いてあるが、当たらない規定です。
だから7分。そして7分は、短い。
起算は「7600にセットした時刻」と「指定高度/最低高度に到達した時刻」の遅い方。無線機を点検し、前の周波数に戻し、他機に中継を頼み、121.5を試す——その一連をやっているうちに、7分は過ぎます。
速度も、同じ時刻で切り替わります。通信途絶以前に速度調整を受けていた場合は、飛行計画の高度に変更する時刻までは指示された速度で飛び、それ以後は飛行計画の速度になります。
ただし、降下を指示されていたなら話は別。その高度を維持します。
IMCの場合③——いつ降り始めるか #
三 (略)目的地の上空に到着したときは、故障前の指示により進入許可が与えられている場合は速やかに、その他の場合にあつては次に掲げる時刻まで当該地点の上空で待機した後、降下を開始すること(当該時刻に降下を開始することができなかつた場合は、できるだけ速やかに降下を開始すること。)。
| 状況 | 降下開始 |
|---|---|
| 故障前に進入許可を受けている | 速やかに |
| 進入予定時刻(EAT)が明らかにされている | その進入予定時刻 |
| EATはないが、進入フィックスへの到着予定時刻を通報している | その到着予定時刻 |
| どちらもない | 離陸時刻+飛行計画の所要時間が経過した時刻 |
AIM-Jには、3行目にただし書きが付いています。
ただし、通信途絶が進入フィックスでの待機中に発生した場合で、次の指示が与えられる時刻が明らかにされている場合は当該時刻
ホールド中に落ちたなら、EFCが基準になる。
そして、その時刻に降下を開始できなかった場合は「できるだけ速やかに」。時刻を過ぎたからといって、上で回り続けるわけではありません。
管制側は、こちらの受信機の生死を確かめにくる #
管制方式基準 (Ⅳ)-1-1【航空機の無線通信機故障の場合の措置】に、ATC側の手順があります。
(a) 当該機に対し旋回又はトランスポンダーの操作を指示し、レーダー画面上における指示に応じたターゲットの変化を視認することにより当該機の受信機の状況を確認する。 ★返事がありません。こちらの送信が聞こえれば〔適当な指示〕して下さい。 REPLY NOT RECEIVED. IF YOU READ ME〔appropriate instructions〕.
(b) (略)当該機の受信機が作動しているとみなされる場合は、一方送信によりレーダー業務を継続する。 ★〔応答動作〕観察しました。レーダーサービスを継続します。 〔action〕OBSERVED. WILL CONTINUE RADAR SERVICE.
送信機だけが死んでいるなら、レーダーサービスは続きます。指示された旋回やスコーク操作に応じれば、それが「聞こえています」という返事になる。管制指示の確認が要るときは、IDENTの送信やコード変更を求められます。
「返事ができない」と「何も届いていない」は違う。まず自分がどちらなのかを、管制官と一緒に切り分けにいく形です。
送信だけは生きているかもしれない——ブラインドトランスミッション #
AIM-Jが、はっきり推奨しています。
通信設定ができない場合、送信機能だけが作動している可能性を考慮して、一方送信(ブラインドトランスミッション)によってパイロットの意図を適宜通報することが望ましい。
例文まで載っています。
Tokyo Control, this is JA 5678, transmitting in the blind, over BUBDO 1234, FL230, YOSHI 1249, Oyama next, this is JA 5678, out.
読み解くと、位置(BUBDO)・通過時刻(1234)・高度(FL230)・次のフィックスと通過予定(YOSHI 1249)・その次(Oyama)。通常の位置通報と、同じ型です。
そして”transmitting in the blind” で始め、“out” で閉じる。返事を待たない送信であることを、最初と最後で示します。
届いているかどうか分からないまま、意図を流し続ける。これが、7600と並ぶもう一つの意思表示になります。
その前に——通信を取り戻す工夫 #
条文の世界に入る前に、やることがあります。
- 自機無線機の点検(周波数・押しボタン・電源)
- 10秒ほど待って再送信
- 前の周波数に戻す
- 当該機関の他の周波数
- 次の切換周波数が予測できればそれへ
- 最寄りの管制機関等を呼ぶ
- 他の航空機に中継を依頼
- 121.5/243.0MHzで試みる
ほかに HF・カンパニーレディオ・ACARS・SATCOM も手段になります。
「故障」と決めつける前に、選局ミスを疑う。——順番として、ここが最初です。
ヘリコプターの立場で #
いちばんの武器は、やはり206条一号だと思います。
VMCなら降りる。ヘリは着陸できる場所の選択肢が広く、進入も低速で選べます。経路・高度・降下開始時刻という条文の世界に入る前に、そもそも一号で終われないかを最初に考えたい。
そのうえで、条文の世界に入るなら7600をセットした時刻を、どこかで意識しておきたいと思いました。前述のとおり、そこから7分しかありません。
もう一つ。この手順は「故障前に何を指示されていたか」を覚えていることが前提です。最後に指示された高度、承認された経路、EAT——それが分からなければ、条文をなぞれません。
通信が生きているうちに、次にやることを頭に入れておく。結局そこに戻ってきます。
まとめ #
- 手順は航空法施行規則第206条(通信機の故障の場合の航行)に条文としてあり、「次に掲げる方法に従わなければならない」という書き方。
- 最初の分岐はVMCかどうか。VMCなら、VMCを維持して飛行を継続し、安全に着陸できると思われる最寄りの空港等に着陸し、直ちに管制機関へ通報。
- 7600は管制機関の指示を待たず、自分でONにする(7500・7700も同じ扱い)。
- 経路は承認を受けた航路で管制承認限界点/目的地の上空まで。ベクター中なら最寄りのフィックス(復帰点が明示されていればその地点)で航路に戻る。
- 高度は「故障前の指示による高度」と「最低高度(MEA・MCA・MRA)」の高い方。速度は故障前に指示されたもの。
- 切り替えの時刻はレーダー管制空域なら7分(7600セット時刻/指定高度・最低高度到達時刻の遅い方から)、それ以外なら20分(義務位置通報点で通報できなかった時点から)。以後は飛行計画の高度・速度。降下を指示済みならその高度を維持。
- 降下開始は、進入許可済みなら速やかに/EATがあればEAT/なければ進入フィックスへの到着予定時刻(ホールド中に途絶したなら、次の指示が与えられる時刻)/どちらもなければ離陸時刻+飛行計画の所要時間。その時刻に開始できなければ、できるだけ速やかに。
- 管制側は旋回やトランスポンダー操作を指示して、こちらの受信機の生死をレーダーで確認する(REPLY NOT RECEIVED. IF YOU READ ME…)。受信できているとみなされれば、一方送信でレーダー業務が継続される。
- ブラインドトランスミッションが推奨されている。“transmitting in the blind” で始め、位置・時刻・高度・次のフィックスを通常の位置通報の型で流し、“out” で閉じる。
- 条文に入る前に、選局・電源・他の周波数・中継依頼・121.5MHzなどで通信の回復を試みる。
- 実際に使うのは7分のほうだけ。国内でIFRを飛ぶ限りレーダー覆域外はまず生じず、20分側は起算点が義務位置通報点であることが示すとおり条文にはあるが当たらない規定。そして7分は短い——通信回復を試しているうちに過ぎる。
- 手順全体が「故障前に何を指示されていたか」を覚えていることを前提にしている。
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本記事は、航空法施行規則第206条、AIM-Japan、及び管制方式基準(航空保安業務処理規程 第5 管制業務処理規程)の記述に基づき、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。実際の運航にあたっては、最新のAIM-J・AIP及び自社の運航規程を必ずご確認ください。考察部分には筆者の私見を含みます。
出典
- 航空法施行規則 第206条(通信機の故障の場合の航行)
- AIM-Japan(通信機故障時の高度・速度・降下開始時刻、レーダー空域7分/それ以外20分、ブラインドトランスミッション)
- 管制方式基準(航空保安業務処理規程 第5 管制業務処理規程)(Ⅳ)-1-1【航空機の無線通信機故障の場合の措置】、別表2 二次レーダー一般コード
画像出典:Wikimedia Commons “DC9 ATC Transponder” by Rainmaker47(CC BY-SA 3.0)。イメージ画像(ATCトランスポンダーの操作パネル)。
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