キキクルの「赤」と「紫」は、同じ基準を見ている——違うのは何時間先を見ているかだけ

キキクルの「赤」と「紫」は、同じ基準を見ている——違うのは何時間先を見ているかだけ

前回のレベル5特別警報の記事で、キキクルという言葉が何度も出てきました。警戒レベルの説明にも、特別警報の発表条件にも、必ず顔を出します。

名前は知っていても、色がどう決まっているかまで調べたことはありませんでした。今回それを読んでみたら、思っていたのとだいぶ違いました。

先に結論を書きます。「赤」と「紫」は、同じ基準を見ています。違うのは、何時間先の予測で見ているかだけです。


キキクルとは何か #

大雨による災害の危険度を、1km四方のマス目ごとに5段階で色分けした地図です。常時10分ごとに更新されます。

令和8年5月29日から4種類になりました。

名前対象使う指数予測の先読み表示
土砂キキクル崖崩れ・土石流60分雨量+土壌雨量指数6時間先まで1km四方
浸水キキクル低地の浸水(内水氾濫)表面雨量指数1時間先まで1km四方
洪水キキクル中小河川の氾濫流域雨量指数等3時間先まで河川の流路に沿って
大雨キキクル(新設)上の2つ(浸水+洪水)両方—重ね合わせ

大雨キキクルは令和8年の新顔です。前回書いたとおり「レベル3大雨警報」「レベル4大雨危険警報」が中小河川の氾濫と低地の浸水をまとめて扱うようになったので、それに対応する地図として、洪水キキクルと浸水キキクルを重ねて表示するものが作られました。ボタンで個別表示にも切り替えられます。

先読みの時間が1時間・3時間・6時間とばらばらなのは、現象の時間スケールが違うからだと思います。短時間強雨による浸水はすぐ来て、土に染みこんで崩れるのは遅れてくる。

3つの指数——「雨量」ではなく「溜まり方」を見ている #

キキクルの土台にあるのが、気象庁が開発した3つの指数です。いずれも雨量そのものではありません。

指数何を数値化しているか
土壌雨量指数降った雨が土壌中にどれだけ溜まっているか(タンクモデル)
表面雨量指数降った雨が地表面にどれだけ溜まっているか(タンクモデル)
流域雨量指数上流に降った雨で、下流の地点の洪水リスクがどれだけ高まるか

面白いのは表面雨量指数の考え方です。

降った雨が地中に浸み込みやすい山地や水はけのよい傾斜地では、雨水が地表面に溜まりにくいという特徴がある一方、地表面の多くがアスファルトで覆われている都市部では、雨水が地中に浸み込みにくく地表面に溜まりやすいという特徴があります。

地面の被覆状況、地質、地形勾配を織り込んでいます。同じ50mmでも、アスファルトの上と山の斜面では指数がまったく違う。「1時間50mm」という雨量だけでは危険度が測れない、というのがこの指数の出発点です。

流域雨量指数のほうは、全国約24,000河川が計算対象です。河川が通っていない格子でも、タンクモデルによる流出量の算出と地形に沿った流下計算を簡易的に行って基準値を設定しています。

基準値は、過去約30年の災害実績から #

指数そのものは相対的な数字なので、それだけでは危険かどうかわかりません。そこで気象庁は、過去約30年分の災害発生時の指数を網羅的に調査して、「この値を超えると重大な災害がいつ発生してもおかしくない」という数値を基準にしています。

過去に重大な洪水災害が確認されていない河川については、統計処理して30年に一度超えるかどうかの値をレベル3基準、50年に一度の値をレベル4基準とするのが基本だそうです。

なお、元になる雨量データは解析雨量(レーダー+雨量計、1km四方、30分ごと)と速報版解析雨量(10分ごと)です。キキクルが10分ごとに更新できるのは、この速報版があるからです。

本題——色は「何時間先を見ているか」で決まる #

土砂キキクルの判定ルールが、気象庁のページに明記されています。これが今回いちばん驚いたところです。

色判定条件警戒レベル
今後の情報等に留意(無色)実況値および6時間先までの予測値が、レベル2基準未満—
注意(黄)実況値または6時間先までの予測値が、レベル2基準以上2相当
警戒(赤)3時間先の予測値が、レベル4基準以上3相当
危険(紫)実況値または2時間先までの予測値が、レベル4基準以上4相当
災害切迫(黒)実況値が、レベル5基準以上5相当

赤と紫の行を見比べてください。

どちらも「レベル4土砂災害危険警報の基準」を見ています。違うのは、3時間先の予測か、2時間先までの予測かだけです。

つまり、キキクルの色は「残り時間」 #

この読み方をすると、キキクルの意味がだいぶ変わります。

  • 赤 = このままだと3時間後にレベル4基準に届く
  • 紫 = このままだと2時間以内に届く(あるいはもう届いている)
  • 黒 = レベル5基準にすでに届いた

色が上がっていくというのは、危険が増しているというより、残り時間が減っているということです。

赤から紫に変わったら「1時間削られた」。紫から黒になったら「時間切れ」。そういう時計だと思って見たほうが、行動につながりやすい気がします。

そして気象庁がレベル3土砂災害警報をレベル4より1時間程度早く発表するのも、この構造から来ています。赤(3時間先)でレベル3、紫(2時間先)でレベル4。発表の1時間の差は、予測の先読み1時間の差です。

ただし、

積乱雲が急速に発達する場合など予測が難しい状況では、レベル3土砂災害警報を経ずにレベル4土砂災害危険警報が発表する場合もあります。

赤を飛ばして紫になることがある。時計は、必ずしも順番に進みません。

令和8年5月29日に変わったこと #

土砂キキクルの判定方法が変わりました。新旧を並べます。

色改正前改正後(令和8年5月29日〜)
災害切迫(黒)実況でレベル5基準到達変更なし
危険(紫)2時間先までにレベル4相当基準到達変更なし
警戒(赤)2時間先までに大雨警報(土砂災害)基準到達3時間先にレベル4土砂災害危険警報基準到達
注意(黄)2時間先までに大雨注意報基準到達6時間先までにレベル2土砂災害注意報基準到達

赤は、低いほうの基準(警報基準)を見ていたのが、紫と同じレベル4基準を見るようになりました。当然、赤は出にくくなります。

黄は、先読みが2時間から6時間に延びました。黄は早く、広く出るようになります。

気象庁自身がこう書いています。

現行に比べて警戒(赤)が絞り込まれるとともに、注意(黄)から危険(紫)になることが多くなる傾向がありますので、表示の特性の変化にご留意ください。

黄から、赤を飛ばして紫に跳ぶ。これが新しいキキクルの見え方です。

もうひとつ、静かな変更 #

こちらのほうが影響が大きいかもしれません。

令和8年5月の新たな防災気象情報の運用開始に伴い、従来、土砂キキクルで、周辺3km四方で判定されたうち最大の危険度を当該1kmメッシュの危険度(最終的な判定結果)としていた取扱いは、廃止しました。

改正前は、隣接する3km四方の中でいちばん危険な判定を、そのマスの色にしていたわけです。安全側に振った処理ですが、そのぶん色は広がって見えていました。

これが廃止されたので、同じ雨でも、色のついた範囲は改正前より狭く見えます。「去年よりマシに見える」としたら、それは雨が弱いのではなく、表示方法が変わっただけかもしれません。

使う前に知っておきたい落とし穴 #

気象庁のページに「利用上の留意点」として書かれているものが、なかなか重要でした。

1. 色が出ない場所がある #

これがいちばん効きます。

  • 平坦で土砂災害が発生しえない領域や、建物がなく定住者がいないなど定常的に人が活動していない場所では、レベル3・レベル4の判断基準が設定されていない。だから赤・紫・黒が表示されることはない(土砂キキクル)
  • 建物がなく定住者がいないため家屋の浸水害が発生しない領域では、黒・紫・赤は出ない。さらに河川・建物・道路・農地のいずれも存在しない領域では、黄も出ない(浸水キキクル)

山の中が真っ白でも、それは「安全」を意味しません。「人家がないので基準を作っていない」だけです。

気象庁自身、こういう場所で活動する場合は「雨雲の動き等で最新の状況を確認するとともに、危険な場所から離れることが重要」と書いています。——つまりキキクルではなく、降水そのものを見る資料に戻れということです。

2. 表示されているのは「過去30分間の最大危険度」 #

防災対応の判断に役立てていただくために、危険度が頻繁に変化することがないよう、過去30分間の最大危険度を表示します。

色がチカチカ変わらないようにする処理です。裏を返すと、画面の色は「今この瞬間」ではなく、直近30分でいちばん悪かったときを映しています。改善方向には最大30分遅れるということでもあります。

3. 黒が出ても、特別警報が出るとは限らない #

これは前回の記事とつながる話です。

条件
キキクルの黒1つの格子の実況値がレベル5基準に到達
レベル5特別警報基準到達の格子が概ね30個以上(土砂は10個以上)まとまって出現する予想+激しい雨がさらに降り続く予想

黒は点、特別警報は面。黒が出ているのに特別警報が出ない、ということは普通に起こります。気象庁も「整合しない場合があります」と明記しています。

特別警報を待つなというのは、こういう意味でもあるわけです。

4. 雪は考慮されていない #

土砂キキクルも浸水キキクルも、降った雪が積雪として蓄えられる過程と、それが融ける過程を計算に入れていません。降雪時・融雪時は危険度を正確に表現できていない場合がある、とされています。

5. レーダーの誤反射で過大になることがある #

解析雨量を使っている以上、避けられない性質です。

レーダーの電波が雨雲以外のものから反射されることなどが原因で、実際の降水よりも遥かに強い降水が狭い範囲に解析される場合があり、土砂キキクルでより高い危険度の判定となることがあります。

狭い範囲だけ突出して色が濃いときは、この可能性も頭に置いておくとよさそうです。

飛ぶ側から見ると #

キキクルは「空」の地図ではない #

当たり前ですが、確認しておきたいところです。キキクルが見ているのは地面です。雲底も視程も、着氷も乱気流も、そこには何も表示されていません。

飛べるかどうかの判断材料としては、下層悪天予想図やSCW、XRAINのほうが直接的です。

それでも見る価値があるのは、降りたあとの話 #

一方で、降りる場所と、そこから先には直結します。

  • 場外離着陸場やヘリポートの使用可否——冠水、地盤の緩み
  • 地上支援の到達可否——道路の冠水、通行止め
  • アンダーパスの冠水——これは浸水キキクルの本来の用途そのもの

飛べるかどうかと、降りたあと業務が成立するかは別の問題です。後者を見る地図としては、かなり使える部類だと思います。

山岳では、「白い」ことを信用しない #

さきほどの落とし穴1が効いてくるのが、ここです。

山間部は、まさに「建物がなく定住者がいない」領域です。人家がないので基準が設定されておらず、どれだけ降っていても色がつかないマスがあります。

山岳での飛行や捜索救助で「キキクルが白いから大丈夫」という読み方は、成り立ちません。その場所では、雨雲の動きやXRAINといった降水そのものを見る資料に戻る必要があります。

赤の「3時間先」は、計画のスパンに近い #

新しい赤は3時間先の予測です。これはヘリの1レグ〜1ミッションの時間感覚とかなり近い。

「今は降っていないが、赤が出ている」という状態は、出発してから戻るまでの間に状況が変わるということを示しています。判断のトリガーとしては、使い道がありそうだと感じました。

通知サービスがある #

キキクルの危険度の高まりをプッシュ通知するサービスが、気象庁の協力のもとで5事業者から提供されています(PREP/特務機関NERV防災/お天気JAPAN/お天気ナビゲータ/Yahoo! JAPAN)。

通知のタイミングは、登録した地域で「危険」(紫)が出現したとき等。黒になってからでは遅いという設計思想が、ここにも出ています。

年表 #

時期できごと
平成29年7月4日13時「大雨警報(浸水害)の危険度分布」「洪水警報の危険度分布」の提供開始
令和元年6月土壌雨量指数を5kmメッシュから1kmメッシュへ高解像度化
令和3年3月17日愛称を「キキクル」に決定(一般公募、1,200件超の応募)
令和4年6月30日「災害切迫」(黒)を追加。「非常に危険」(うす紫)と「極めて危険」(濃い紫)を「危険」(紫)に統合
令和8年5月29日大雨キキクル新設。土砂キキクルの判定方法変更、周辺3km四方の最大値を取る扱いを廃止

まとめ #

  • キキクルは、大雨による災害の危険度を1km四方・5段階で色分けし、10分ごとに更新する地図。令和8年5月29日から土砂・浸水・洪水・大雨の4種類。
  • 先読みの時間は種類ごとに違う。土砂は6時間先、洪水は3時間先、浸水は1時間先まで。
  • 土台は土壌雨量指数・表面雨量指数・流域雨量指数。いずれも雨量ではなく「雨がどこにどれだけ溜まっているか」を数値化したもの。基準値は過去約30年の災害実績から。
  • 色は「レベル4基準に、何時間先の予測で届くか」で決まる。赤=3時間先、紫=2時間先までまたは実況、黒=レベル5基準に実況で到達。赤と紫は同じ基準を見ている。
  • 令和8年の改正で、赤はレベル4基準(3時間先)に変更され絞り込まれ、黄は6時間先まで延びて早く広く出るように。結果として黄から赤を飛ばして紫に跳ぶことが増える。
  • 周辺3km四方の最大危険度を採る扱いが廃止されたので、同じ雨でも色のつく範囲は以前より狭く見える。
  • 落とし穴。①人家のない場所には色がつかない(山の中の白は安全ではない)/②表示は過去30分間の最大/③黒は点、特別警報は面なので整合しないことがある/④雪は考慮外/⑤レーダーの誤反射で過大になることがある。
  • 飛ぶ側にとっては、空の状態を見る地図ではない。ただし着陸地点の使用可否・地上支援の到達可否には直結する。山岳で「白い=安全」と読むのは成り立たない。

関連記事 #


本記事は気象庁の公表資料に基づき整理したものです。判定方法や基準は改正されることがあります。実際の防災対応・運航判断は必ず最新の公式情報でご確認ください。

ヒーロー画像はイメージです(大阪府八尾市の高安山気象レーダー観測所)。キキクルの元データである解析雨量は、こうした気象レーダーの観測を雨量計で補正して作られています。“Takayasu-yama Meteorological Radar Observatory in Yao, Osaka” by Kansai explorer / Wikimedia Commons / CC BY 3.0(本記事への掲載にあたりリサイズを行いました)


出典

コメント

※ 名前を入力するだけでコメントできます(メールアドレスは任意)。 投稿いただいたコメントは管理者の承認後に表示されます。