着陸最低気象条件を読み解く——DA/MDA・RVR・CMVと、「暫定」と「飛行方式設定基準」の違い

着陸最低気象条件を読み解く——DA/MDA・RVR・CMVと、「暫定」と「飛行方式設定基準」の違い

離陸編に続いて、今回は**着陸の最低気象条件(Landing Minima)を整理する。離陸ミニマが「戻って降りられるか」の一点で決まったのに対し、着陸ミニマは構造がもう少し立体的だ。「どの高さまで降りて判断してよいか」と「そのとき何がどれだけ見えていればいいか」**の組み合わせで決まる。

離陸編と同じく、旧来の暫定基準と2006年からの飛行方式設定基準の違いにも触れる。CAT II/IIIは扱わない

着陸ミニマは「3点セット」 #

着陸最低気象条件は、次の3つがそろって初めて意味を持つ。

  1. 判断する高度:精密進入ならDA/DH(決心高度/決心高)、非精密進入ならMDA/MDH(最低降下高度/同高)。
  2. 必要な視程RVR、またはRVRがないときは**CMV(変換気象視程)**や地上視程。
  3. 規定の視認目標:その高度で、進入灯・滑走路末端・接地帯・滑走路灯などの定められた目標が見えていること

これを、進入のどの段階で確認するかも決まっている。ざっくり①進入開始前、②制限高度(FAF/OM/1000ft AGL付近)、③DA/MDAの3か所でゴー/ノーゴーを判断していく。DA/MDAに達したとき、上の「視認目標」が見えなければ**復行(ゴーアラウンド)**だ。

精密進入と非精密進入の違い(ここが肝) #

同じ着陸でも、垂直ガイダンスの有無で構造がガラッと変わる。

精密進入(ILS CAT I) #

グライドスロープという垂直の道しるべがある。だから「ここまで降りて、見えなければ即やり直す」という**DA(決心高度)**で運用できる。DAは通過する高度で、そこで判断して降下を続けるか復行するかを決める。

  • 代表値:DH 200ft/RVR 550m(施設がそろった滑走路の例。福島空港などのチャートでもこの水準)。

非精密進入(VOR・LOC・RNAV(LNAV)等) #

垂直ガイダンスがない。パイロットが自分で降下を管理するので、余裕を見て**MDA(最低降下高度)**という“それ以上は降りてはいけない床”を設ける。MDAはDAと違って「割り込んではいけない高度」で、そこで水平飛行しながら視認目標を探す。

  • 精密進入よりMDA/MDHは高く、必要視程も大きくなるのが普通。値は進入灯の長さと航空機区分で変わる。

同じ滑走路でも、ILSが使えるかVORだけかで、降りられる高さも要る視程も違う——これが着陸ミニマの一番の勘どころだ。

周回進入(Circling)は「区分別視程」 #

まっすぐ降りられず、空港を見ながら場周して別の滑走路に着ける周回進入は、別枠で考える。ここでは航空機区分(進入速度)ごとに必要視程が決まり、CMVは使えない(地上視程で判断)

代表的な必要視程(ICAO準拠の目安。空港・区分により異なる):

航空機区分代表的な必要視程
Cat A(〜約90kt)約1,600m
Cat B約1,600m
Cat C約2,400m
Cat D約3,600m

周回中は周回進入用MDAを割り込まないまま滑走路を視認し続け、着陸態勢に入れる位置に来て初めて降下する。ヘリや低速機はCat Aに収まることが多いが、視認を切らさないことが絶対条件だ。

CMV(変換気象視程)を正しく使う #

RVRの観測がない滑走路では、報じられた地上視程を“見え方の良さ”で割り増しして使う。これがCMV(Converted Meteorological Visibility)だ。CMV=地上視程 × 倍率で、倍率は灯火の種類と昼夜で変わる。

灯火・時間帯倍率
進入灯+滑走路灯(昼)×1.5
進入灯+滑走路灯(夜)×2.0
滑走路灯のみ(昼)×1.0
滑走路灯のみ(夜)×1.5
灯火なし(昼)×1.0

夜のほうが灯火が視認しやすいので倍率が大きい、という理屈だ。ただしCMVが使えない場面がある——離陸時/CAT II・III/周回進入/代替空港の選定。これらは素の視程・RVRで判断する。「CMVで嵩上げして代替をクリアした」はダメ、ということだ。

OCA/OCHが値の“素”になる #

ではDA/MDAの数字はどこから来るのか。もとになるのが**OCA/OCH(障害物間隔高度/同高)**だ。

  • 方式設計者が、その進入経路の障害物を評価し、安全に降りられる下限としてOCA/OCHを算出する。
  • DA(精密)やMDA(非精密)は、このOCA/OCH以上に設定される。運航者や機材による上乗せが入ることもある。

つまり「DA 200ft」という数字の裏には、その滑走路の障害物を測った結果がある。ミニマは恣意的な設定ではなく、地形と施設の実測に根ざしている。

暫定基準 vs 飛行方式設定基準 #

このOCA/OCHをどう出すかで、離陸編と同じ2系統に分かれる。

飛行方式設定基準(新・2006年〜) #

ICAOの方式設定基準に準拠し、障害物を実測してOCA/OCHを算出、滑走路ごとに個別最適化したDA/MDA・視程を与える。ほとんどの空港が移行済み

暫定基準(旧) #

障害物の個別評価に基づく最適化がされていない、保守的な既定値。同じ滑走路なら新基準より**ミニマが高め(厳しめ)**になりがちだ。一部の空港・方式で残っており、チャートのNOTE欄で判別する。

暫定基準(旧)飛行方式設定基準(新・2006〜)
OCA/OCHの出し方保守的な既定値障害物実測で算出
DA/MDA・視程高め(厳しめ)になりがち滑走路ごとに個別最適
適用一部に残存ほとんどの空港

離陸編で見たのと同じ構図だ——新基準は「実測して、出せるところは下げる」、暫定は「一律に、余裕を大きく取る」

実務での読み方・注意点 #

  • 進入方式ごとにミニマ行が分かれている。ILS用・LOC(GSアウト)用・VOR用・周回用で別の値が並ぶ。使う方式の行を選ぶ。
  • RVRが出ていればRVR優先、なければCMV。CMVを使うときは灯火種別と昼夜の倍率を間違えない。
  • 周回と代替はCMV不可。素の視程で見る。
  • 視認目標を具体的に意識する。DA/MDAで「なんとなく明るい」ではダメで、進入灯・末端・接地帯など規定の目標が見えているか。
  • 会社ミニマと突き合わせる。AIPより会社ミニマが高いことがあり、その場合は高い方が効く。
  • 灯火不作動はNOTAM確認。灯火が欠けるとCMV倍率も必要視程も変わる。

まとめ #

  • 着陸ミニマはDA/MDA+必要視程(RVR/CMV)+規定の視認目標の3点セット。DA/MDAで視認目標が見えなければ復行。
  • 精密(ILS CAT I)はDAで運用・DH200ft/RVR550mが代表値非精密はMDA運用で、より高く・より大きい視程周回は区分別視程でCMV不可
  • CMV=地上視程×倍率(進入灯+滑走路灯で昼1.5/夜2.0など)。離陸・CAT II/III・周回・代替では使えない
  • DA/MDAの素はOCA/OCH。それを**障害物実測で出す新基準(飛行方式設定基準・ほぼ全空港)**と、**保守的既定値の暫定基準(一部残存)**があり、暫定の方が厳しめ。
  • 実務は方式ごとの行→RVR/CMVの別→会社ミニマの順で突き合わせる。

離陸編と合わせて読むと、「ミニマは障害物と施設の実測に根ざし、戻れる/降りられる余裕から逆算されている」という共通の設計思想が見えてくるはずだ。

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本記事は、日本の飛行方式設定基準・AIM-J・運航規程審査要領等の公開情報および公開解説をもとに、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。数値は代表例であり、空港・改訂・運航者・航空機区分により異なります。実運航では最新のAIP・運航規程を必ず確認してください。CAT II/III運航は本記事の対象外です。


出典

画像出典:Wikimedia Commons “Approach lighting system Cologne Bonn Airport” by Raimond Spekking(CC BY-SA 4.0)

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