離陸最低気象条件を読み解く——「暫定基準」と「飛行方式設定基準」は何が違うのか

離陸最低気象条件を読み解く——「暫定基準」と「飛行方式設定基準」は何が違うのか

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📌 訂正(2026年8月23日) 内容に誤りがあったため、AIP原文に基づいて修正しました。申し訳ありません。

離陸の最低気象条件(Take-off Minima)は、着陸ミニマの陰に隠れて地味だが、実務では意外と引っかかる。「滑走路が見えてるんだから離陸くらいできるだろう」——そう思っていると、チャートの数字に足止めされる。

しかも日本には、この離陸ミニマを決める基準が2種類ある。旧来の暫定基準と、2006年に導入された飛行方式設定基準だ。同じ滑走路でも、どちらで設定されているかで数字の意味が変わる。この記事では、両者の違いを具体値で整理する。なおCAT II/IIIは扱わない(ここでは標準的な離陸を前提にする)。

大前提:離陸ミニマは「戻れるか」で決まる #

まず誤解を解く。離陸最低気象条件は、離陸そのものの可否を決める数字ではない。離陸滑走中に前が見えればいい、という話ではないのだ。

本質はこうだ——離陸直後にエンジン故障などのトラブルが起きたとき、その空港に戻って降りられるか。離陸してすぐ引き返す事態になったとき、進入して着陸できるだけの視界がなければ、行き場を失う。だから離陸ミニマは、実質的に「離陸直後の緊急着陸のための視程」として設計されている。

この一点を押さえると、AIPの構造がそのまま読める。離陸ミニマは、まず2つに枝分かれする。

区分条件値の決まり方
ⅰ)多発機であって離陸の代替飛行場を設定した場合滑走路の灯火(400m/500m)
ⅱ)単発機、及び離陸代替を設定しない多発機利用できる進入方式(CAT I/非精密/周回…)

戻る当てを別に用意したなら灯火だけの話で済み、用意しないなら「その空港に降りられる条件」に縛られる。「戻って降りられるか」という設計思想が、そのまま区分になっている。

そしてⅱ)には下限がある——後述するが、ここが実務でいちばん引っかかるところだ。

暫定基準 vs 飛行方式設定基準 #

日本の離陸ミニマには、設定の“出どころ”が2つある。

飛行方式設定基準(新基準・2006年〜) #

国際標準(ICAOの方式設定基準)に準拠したもの。障害物を実測して離陸上昇区域を評価し、その滑走路に個別最適化したミニマを与える。2026年時点で、ほとんどの空港がこちらへ移行済みだ。

AIPは、新基準に基づき設定された標準計器出発方式(SID)に係る離陸の最低気象条件について、こう定めている。

「最低気象条件に係る一般適用事項」AD 1.1.6.10.1.3 3) に従い算定されるとおりとする。

個別の表を持たず、一般適用事項の算定に委ねる——これが新基準側の作りだ。その算定の骨格が、次に見る灯火別の値になる。

暫定基準(旧基準) #

一部の空港で今も使われている、保守的な既定値。障害物の個別評価に基づく最適化がされていない。

見分け方は表の作りだ。暫定側は「TKOF ALTN AP FILED」と「OTHER」という飛行方法の欄を持ち、滑走路ごと・灯火の状態ごとに値が並ぶ。

暫定基準の実物——AIPの表を読む #

AIP(AD 1.1.6.9.2.1)が示す暫定基準の離陸ミニマは、3つの軸で引く。

中身
飛行方法(Flight Procedure)TKOF ALTN AP FILED(離陸代替を選定)/OTHER
指定滑走路(Designated RWY)滑走路ごとに値が違う
利用施設(AVBL FAC)REDL & RCLL AVBLREDL or RCLL AVBLREDL & RCLL OUT

さらに各欄がCEIL–RVRCEIL–VISに分かれ、雲高(Ceiling)RVR/地上視程の組で示される。

実際の値の並び方は、たとえばこうだ(滑走路16R/34L/16L/34Rを持つ空港の例)。

RWYREDL & RCLL AVBL(CEIL–RVR)同(CEIL–VIS)REDL or RCLL AVBLREDL & RCLL OUT(CEIL–VIS)
16R0’-500m/*0’-300m/**0’-200m0’-400m0’-600m0’-800m
34L200’-800m200’-800m200’-800m200’-800m
16L200’-800m200’-800m200’-800m200’-800m
34R0’-500m/*0’-300m0’-400m0’-600m0’-800m

*RVR2箇所が利用可能な場合に適用 **RVR3箇所が利用可能な場合に適用

同じ空港でも滑走路で全く違う。16R/34Rは雲高0ftでRVR500m(RVRが3箇所あれば200mまで)まで下がるのに、34L/16Lは雲高200ft+800mが並ぶ。灯火が両方落ちれば(REDL & RCLL OUT)、RVRの欄は「-」になり、地上視程800mでしか出られない。

そしてOTHER の行には、数値ではなく「AVBL LDG MINIMA」とだけ書かれている。

離陸代替を取らないなら、着陸ミニマを当てる #

その意味は、表の下の一文にある。

離陸の代替飛行場を選定しない場合、離陸の最低気象条件は、離陸する飛行場において利用できる計器進入方式に係る着陸の最低気象条件の決心高に相当する雲高、及び地上視程とする。

「戻る当てがないなら、その空港に降りられる条件で出ろ」。離陸ミニマが「戻れるか」で設計されている、という理屈が、ここに条文として現れている。だからILSがあるかVORだけかで、当てはまる値が変わる。

ただし、離陸ミニマを下回ってはならない #

ここが最も重要な但し書きだ。

ただし、離陸の代替飛行場を選定した場合に適用される離陸の最低気象条件未満であってはならない。

However its takeoff minima should not be below the takeoff minima applied when TKOF ALTN AP FILED.

AVBL LDG MINIMAを当てはめる場合でも、離陸の最低気象条件は満たさなければならない。

見落としやすいのは、場所によっては着陸ミニマの方が低いことがある、という点だ。CAT IIやCAT IIIが設定されている滑走路、あるいはCAT Iのミニマが低く抑えられている滑走路では、「進入方式のミニマを当てる」を素直に読むと、離陸ミニマより低い値が出てしまう

しかし、その低い方は使えない。離陸代替を選定したときの離陸ミニマが下限(フロア)として効く。

そして新基準側にも、まったく同じ規定がある。

ⅱ)単発機の場合及び離陸の代替飛行場を設定しない多発機の場合(略)ただし、上記ⅰ)により算出した値未満であってはならない。

However, applicable minima shall be no less than the value calculated in accordance with i) above.

暫定基準でも新基準でも、構造は同じだ。

基準進入方式ベースの値下限(フロア)
暫定基準OTHERAVBL LDG MINIMATKOF ALTN AP FILED の値
新基準ⅱ) = 進入方式別の表ⅰ) で算出した値

両方を満たす、高い方。これが実際の読み方になる。

読み方判定
離陸代替なし → 進入方式に応じた雲高・RVR/地上視程を当てる
その値が離陸ミニマより高いその値で判断
その値が離陸ミニマより低い低い方を使う
その値が離陸ミニマより低い離陸ミニマ(ⅰ)/TKOF ALTN AP FILED時の値)で判断

「降りられる条件」と「出られる条件」の、両方をクリアする。片方だけでは足りない。

低い方に引っ張られない。——この一点だけでも、持ち帰る価値がある。

暫定基準(旧)飛行方式設定基準(新・2006〜)
準拠旧来の保守的既定値ICAO方式設定基準(障害物実測)
適用一部空港で継続ほとんどの空港が移行済み
表の引き方飛行方法(TKOF ALTN AP FILED/OTHER)×滑走路×灯火AD 1.1.6.10.1.3 3) に従い算定
最適化なし(一律保守的)滑走路ごとに個別最適

具体値で見る(飛行方式設定基準の離陸ミニマ) #

AD 1.1.6.10.1.3 3) は、まず区分から始まる。

ⅰ)多発機であって離陸の代替飛行場を設定した場合 離陸の最低気象条件は以下の条件に基づき、次表の区分による。

「多発機であって、離陸の代替飛行場を設定した場合」——これが第一の区分だ。暫定基準の TKOF ALTN AP FILED に対応する。

そのうえで、どの値を当てるかに3つの条件が付く。

a) 離陸滑走開始点に最も近いRVR値が通報されている場合は、少なくとも当該RVR値を適用すること。当該RVR値が通報されていない場合は地上視程を適用するものとする。

b) a)のRVRに他のRVRを加え複数のRVR値を適用するか否かは、運航者の判断によるものとする。複数のRVR値を適用する場合には、関連RVR通報値全てが最低気象条件を満足しなければならない。

c) 夜間運航に対しては少なくとも滑走路灯及び滑走路末端灯(滑走路離陸末端を示すもの)が運用されているものとする。

a) が起点だ。離陸滑走開始点にいちばん近いRVR——これから走り出す場所の値を、少なくとも使う。通報がなければ地上視程に落ちる。

b) が効くのは、RVRが複数ある滑走路。使うかどうかは運航者が決めてよい。ただし使うと決めたら、関連する通報値の全部が基準を満たしていなければならない。暫定基準の表にあった「*RVR2箇所」「**RVR3箇所」で値が下がる仕組みは、この裏返しだ。低い値を使う代わりに、見る箇所が増える。

c) は夜間の前提。滑走路灯に加えて滑走路末端灯(滑走路離陸末端を示すもの)が運用されていること。

そのうえで「次表」が、滑走路の灯火による区分になる。

条件(LVP/LVPD適用不可能な滑走路RVR/VIS
航空灯火 なし(昼間のみ)500m
滑走路灯等あり400m

区分は「多発機+離陸代替」、値を決めるのは「灯火」。2段構えになっている。

ⅱ)単発機、及び離陸代替を設定しない多発機 #

もう一方の区分が、こちらだ。

ⅱ)単発機の場合及び離陸の代替飛行場を設定しない多発機の場合 離陸の最低気象条件は以下のとおりとする。ただし、上記ⅰ)により算出した値未満であってはならない。

ここで「利用できる進入方式」が効いてくる。

進入方式離陸の最低気象条件
CAT II/III精密進入それぞれCAT II、III精密進入の最低気象条件の値に等しいRVR
CAT I精密進入CAT-I精密進入の最低気象条件の値に等しいRVR(RVRが使用できない場合は地上視程
非精密進入非精密進入のMDHに等しい雲高(100ft単位に切り上げ)、及び最低気象条件の値に等しいRVR(使用できない場合は地上視程)
周回進入周回進入のMDHに等しい雲高(100ft単位に切り上げ)、及び最低気象条件の値に等しい地上視程

精密進入なら視程/RVRだけ。非精密・周回なら雲高が付く。垂直ガイダンスの有無が、そのまま雲高要件の有無になっている。

そして雲高の出どころはMDHだ。「戻って降りるときに降りられる高さ」を、そのまま離陸の条件にしている。

注)の但し書きも実務的だ。

“最低気象条件の値に等しい地上視程”とは、公示された最低気象条件の数値に等しい値である。(例:進入方式に対して公示された最低気象条件がCMV2000Mであれば、離陸の最低気象条件として地上視程2000Mとして適用する。)

公示値がCMVでも、離陸では「その数字を地上視程として」当てる。換算はしない——数値だけが移ってくる。

そして、この表には重要な但し書きが付く。

離陸の最低気象条件は通常運航を前提とし、離陸中断や臨界発動機不作動を勘案しない。

ここは読み違えやすい。これは方式設計側(離陸上昇区域の上昇率・障害物間隔の計算)の前提であって、「運航する側が発動機故障を考えなくてよい」という意味ではない。設計で使うPDG(標準3.3%/区分Hは5.0%)は全発動機作動での上昇率を前提にしている、という話だ。

双発機の離陸最低気象条件を考えるときは、片発になった場合を想定して構わない。設計上の前提と、運航上の判断は別の層にある。

表の見出しにある「LVP/LVPD適用不可能な滑走路」 #

この限定にも意味がある。RVR400m未満の離陸=LVTO(低視程離陸)は、LVP/LVPDという地上側の体制が整って初めて可能になる。上の表は、その体制が使えない滑走路の値だ。

400mという数字は、LVTOの入口の手前にある。ここから下に行くには、灯火・RVR・二次電源が整い、管制官から “LVP in force” あるいは “LVP for departure in force” が通報される必要がある。

RVR・灯火・観測点の関係 #

視程側の数字をどこまで下げられるかは、滑走路の設備にも縛られる。

  • 400mという低い値を使えるのは、滑走路灯等が運用されている場合。灯火がなければ昼間のみ500mまで、というのが基準の作りだ。
  • RVRの観測がない/装備が足りない滑走路では、より大きな地上視程での判断になり、低い値は使えない。
  • 灯火が不作動ならNOTAMを確認し、ミニマを取り直す。「昨日は400mで出られた」は今日を保証しない。

離陸にCMVは使えない #

もう一つ、見落としやすい規定がある。飛行方式設定基準は、地上視程通報値をCMV(換算気象視程)へ換算できる場面を限定していて、次には適用されない

a) 離陸 b) カテゴリーII/III精密進入方式 c) 周回進入 d) 代替飛行場

進入では夜間・灯火の条件で1200m→2400mといった換算が効くが、離陸では効かない。

紛らわしいのは、進入方式の公示値がCMVで書かれている場合だ。前掲の注)のとおり、その場合は数値をそのまま地上視程として当てる(CMV2000M → 地上視程2000M)。換算はしないが、数字は引き継ぐ。RVRと視程の読み方を考えるとき、離陸だけは別扱いだと覚えておきたい。

実務での読み方・注意点 #

  • チャートのTAKE-OFF MINIMA欄をまず見る。ILS用・非精密用・多発機+代替空港用で複数の値が併記されていることが多い。自分の機材と代替空港の有無で、どの行に当たるかを選ぶ。
  • 暫定か新基準かを確認。NOTE欄の文言で判別する。暫定なら雲高要件が常に付いてくる前提で読む。
  • 運航規程(会社ミニマ)と突き合わせる。AIPの値がそのまま使えるとは限らない。会社ミニマの方が高い(厳しい)ことがあるので、高い方が効く。
  • 離陸代替空港の“質”も見る。代替を取れば下がるが、その代替空港自体が使える気象・時間内にあることが前提だ。

まとめ #

  • 離陸最低気象条件を考える軸は「離陸できるか」ではなく「離陸直後に戻って降りられるか」。その思想が、そのままⅰ)/ⅱ)の区分になっている。
  • ⅰ)多発機+離陸代替を設定→ 値は灯火で決まる。ⅱ)単発機、及び離陸代替を設定しない多発機→ 値は利用できる進入方式で決まる。
  • 設定基準は2つ。飛行方式設定基準(新・2006〜、ほぼ全空港)は障害物実測で個別最適化し、精密進入なら視程のみ/非精密なら視程+雲高暫定基準(旧・一部)全方式で視程+雲高を要求する保守的な作り。
  • ⅰ)の値灯火なし(昼間のみ)=500m、滑走路灯等あり=400m(LVP/LVPD適用不可能な滑走路)。
  • ⅱ)の値は進入方式別。CAT II/III・CAT Iは「その進入方式の最低気象条件に等しいRVR」だけ(雲高なし)、非精密・周回は「MDHに等しい雲高(100ft単位切り上げ)+最低気象条件に等しいRVR/地上視程」垂直ガイダンスの有無が、雲高要件の有無になっている。
  • そしてⅱ)には下限がある。「上記ⅰ)により算出した値未満であってはならない」。暫定基準側も同じで、OTHER=AVBL LDG MINIMAはTKOF ALTN AP FILEDの値を下回れない。進入方式のミニマの方が低くても、低い方は使えない。
  • 適用の条件は3つ。a) 離陸滑走開始点に最も近いRVRを少なくとも適用(通報がなければ地上視程)、b) 複数RVRを使うかは運航者の判断だが、使うなら全ての通報値が基準を満たすことc) 夜間は滑走路灯及び滑走路末端灯が運用されていること
  • 離陸にCMV(換算気象視程)の換算は適用されない(ほかにCAT II/III、周回進入、代替飛行場も対象外)。ただし進入方式の公示値がCMVの場合は、その数値をそのまま地上視程として当てる(CMV2000M → 地上視程2000M)。換算はしないが、数字は引き継ぐ。
  • RVR400m未満の離陸=LVTOは、LVP/LVPDという地上側の体制が整って初めて可能になる。上の表はその体制が使えない滑走路の値
  • 実務ではチャートの離陸ミニマ欄→暫定/新基準の別→会社ミニマの順に突き合わせる。

「見えているのに出られない」の裏には、戻れるかという設計思想がある。数字だけ覚えるより、その理屈を掴んでおくと、初めての空港でもチャートを正しく読める。

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本記事は、AIP Japan AD 1.1.6.9.2.1(暫定基準に基づき設定された離陸の最低気象条件)及びAD 1.1.6.10.1.3 3)(最低気象条件に係る一般適用事項)の原文、ならびに飛行方式設定基準 第V部第1章をもとに、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。掲載した暫定基準の表は構造を示すための例であり、適用される値は空港・滑走路・改訂により異なります。実運航では最新のAIP・運航規程を必ず確認してください。


出典

画像出典:Wikimedia Commons “The runway lights shining through the fog were fascinating” by shankar s.(CC BY 2.0)

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