LVPとLVPDとは何か——「上がれるが、戻れない」という日本独自の体制

LVPとLVPDとは何か——「上がれるが、戻れない」という日本独自の体制

ATISで “LVP IN FORCE”、あるいは “LVP FOR DEPARTURE IN FORCE” と流れることがあります。

この2つ、似ているようで意味がまるで違います。そして後者は、日本にしかない用語です。

2022年2月24日適用の管制方式基準改正で、それまでのSSP体制という日本独自の用語が廃止され、LVP/LVPDが定義されました。何が変わったのか、条文と改正時の公開資料から整理します。

一行で言うと #

LVP/LVPDは「地上側が整っているか」を表す体制の名前です。機体側の資格(カテゴリーⅡ/Ⅲ航行の許可)や、実際に上がれる・降りられる数値(最低気象条件)とは、別のレイヤーにあります。

レイヤー誰が決めるかどの文書
地上・管制側の体制管制官(関係部署の確認を経て)管制方式基準(LVP/LVPD)
機体・運航者の資格国土交通大臣の許可サーキュラー5-002/5-013(カテゴリーⅡ/Ⅲ航行)
上がれる・降りられる数値運航者・機長離陸/着陸最低気象条件、飛行規程

この3層が混ざると、途端に分からなくなります。

定義——条文そのまま #

管制方式基準の「Ⅰ 総則 2 定義」に、3つの用語が新設されました。

LVP(Low visibility procedure-低視程体制) カテゴリーⅡ/ⅢILS及び低視程離陸を可能とする要件が整っている体制をいう。

LVPD(Low visibility procedure for departure-出発用低視程体制) カテゴリーⅡ/ⅢILSを可能とする要件が整っていない場合であって、低視程離陸を可能とする要件が整っている体制をいう。

低視程離陸(Low visibility take-off-LVTO) RVRが400メートル未満の場合における離陸をいう。

LVPとLVPDは「体制」、LVTOは「運航」。主語が違います。前2つは管制・空港側の状態、LVTOは航空機がすることです。

なぜ導入されたか——SSP体制の限界 #

それ以前、日本にはSSP(Special Safeguards and Procedures)体制がありました。1990年代半ばにカテゴリーⅡ/Ⅲ ILS進入を導入したときに定めた、日本独自の用語です。

問題は、SSPが低視程進入と低視程離陸の両方を1つに包含していたことでした。ALPA Japanの技術情報が、具体的な不具合を挙げています。

  • 降雪やILSの機材更新でカテゴリーⅡ/Ⅲ進入ができないと、離陸に必要な滑走路灯火が揃っていてもSSP体制を適用できず、離陸できない
  • 羽田RWY16Lや新千歳RWY01LのようにカテゴリーⅡ/Ⅲ ILS進入が設定されていない滑走路では、RVRが3か所設置され離陸に必要な灯火も整っているのに、SSPが適用されないためRVR400m未満で離陸できない
  • SSP体制の実施が通報されない運用だったため、ILS機材更新でSSPが適用されていない状態なのに、低視程離陸が実施されたという不具合事例も過去に発生

そもそもパイロット側の判断も、回りくどいものでした。①実際の気象が公示値を下回っている ②「NOT AVAILABLE」と報じられていない——この2つから、自分で「SSP体制が実施されている」と判断する必要があったのです。

「分かりにくい」という現場の声を受けて羽田・成田などでATIS通報が始まりましたが、根本の「進入と離陸が一体になっている」構造は残りました。

そこで両者を切り離すために、SSPを廃してLVP/LVPDが導入されます。要件はICAO Doc 9365(全天候運航マニュアル)をベースとされました。

3つの管制用語と、できる運航 #

新設された管制用語は3つ。この対応表がいちばん実用的です。

通報される用語LVTO(RVR400m未満の離陸)カテゴリーⅡ/Ⅲ
LVP in force
LVP for departure in force×
LVP not available due to〔理由〕××

条文上のフレーズはこうです。

★(滑走路〔番号〕の)LVP/LVPDは適用されています。 (RUNWAY〔number〕) LOW VISIBILITY PROCEDURE / LOW VISIBILITY PROCEDURE FOR DEPARTURE IN FORCE.

★〔理由〕により(滑走路〔番号〕の)LVPは適用されていません。 (RUNWAY〔number〕) LOW VISIBILITY PROCEDURE NOT AVAILABLE DUE TO〔reason〕.

なぜ「LVPD」と略さず、無線では “LVP FOR DEPARTURE” と言うのか。改正案に対する質問と回答が公開されていて、答えは明快でした。

「LVP」と「LVPD」の発音時の類似を可能な限り回避するためです。

書き言葉はLVPD、話し言葉はLVP FOR DEPARTURE。混同を避けるための、意図的な使い分けです。

適用までの流れ——ここに両者の差が出る #

LVPの場合

  1. プリアラーム値に達する → 管制官が関係部署にLVP要求
  2. 関係部署が管制官に、必要灯火/RVR/カテゴリーⅡ・ⅢILS/二次電源の正常作動、及びILS critical areaの保護を連絡
  3. 雲高200ft/RVR550m未満 → 管制官がLVPを適用
  4. 航空機に “LVP in force” を通知 → カテゴリーⅡ/Ⅲ進入とLVTOが可能

LVPDの場合

  1. プリアラーム値に達する → 管制官が施設の運用状況の確認を依頼
  2. RVR400m未満必要灯火/RVR/二次電源の正常作動を確認してLVPD適用
  3. 航空機に “LVP for departure in force” を通知 → LVTOが可能

確認項目の差が、そのまま2つの体制の違いです。

確認項目LVPLVPD
必要灯火
RVR
二次電源の正常作動
カテゴリーⅡ/Ⅲ ILSの正常作動
ILS critical areaの保護

LVPDに後の2つが入らない理由も、改正資料に明記されています。ICAO Doc 9365の低視程離陸条件に、カテゴリーⅡ/Ⅲ ILSの正常作動とILS critical areaの確保は含まれていないからです。

離陸に要るのは、見えることと、灯りが点いていること。進入のようにILSの電波を守る必要はない——この切り分けが、そのまま体制の切り分けになりました。

いつ通報されるか——到着機と出発機で条文が違う #

到着機((Ⅱ)計器飛行管制方式 7(4)(b)オ)

気象状態が雲高200フィート未満又はRVR550メートル未満の場合は、LVP又はLVPDの適用状況(ただし、必要と認められる場合は、飛行場毎にこの値を超える気象条件を定めることができるものとする。)

出発機((Ⅲ)飛行場管制方式 5(1)(f))

LVP又はLVPDの適用状況(IFR出発機に限る。) 気象状態がRVR400メートル未満の場合、速やかに通報するものとする。ただし、必要と認められる場合は、飛行場毎にこの値を超える気象条件を定めることができるものとする。

いずれも、ATIS情報に含まれていて、受信した旨を通報した場合は省略できます

改正前の条文と並べると、変化がよく分かります。:「カテゴリーⅡ/ⅢILSが適用できない場合はその旨」——できないときだけ言う:「LVP又はLVPDの適用状況」——どちらの状態かを言う

「言わないことが肯定」だった運用が、「状態を名指しする」運用に変わった。これが今回の改正のいちばん大きな変化だと思います。

空港別の適用基準 #

条文の値(雲高200ft/RVR550m、出発はRVR400m)は下限で、実際には空港ごとにそれ以上の値がAIPに公示されています。導入時点の9空港はこうでした。

空港LVP適用基準(進入)LVP/LVPD適用基準(離陸)
釧路雲高400ft以下 又は RVR 1000m以下RVR 1000m以下
新千歳雲高200ft以下 又は RVR 550m以下RVR 550m以下
青森雲高200ft以下 又は RVR 600m以下RVR 600m以下
成田雲高200ft以下 又は RVR 600m以下RVR 600m以下
羽田雲高200ft以下 又は RVR 600m以下RVR 600m以下
中部雲高200ft以下 又は RVR 600m以下RVR 500m以下
関西雲高200ft以下 又は RVR 550m以下RVR 400m以下
広島雲高200ft以下 又は RVR 600m以下RVR 600m以下
熊本雲高600ft以下 又は RVR 1600m以下RVR 500m以下

中部・関西・熊本は、進入用と離陸用でRVRの値が違います。熊本の雲高600ft/RVR1600mという緩さも目を引きます。

情報提供は、出発機・到着機とも同じ用語をATISで。ただし釧路と青森はATISがないため、出発機はTower、到着機はACCから提供されます。

そして重要な前提。カテゴリーⅡ/Ⅲ ILSがない空港にはLVTOが設定されず、LVP/LVPDに関する情報提供もありません。

実務上の落とし穴が2つ #

① “LVP for departure in force” は到着機にも通報される #

改正資料が「今回の目玉」として注意を促しているのがここです。

到着機がこれを聞いたら、意味は「カテゴリーⅡ/Ⅲ ILSは実施不可能」。LVTOだけができる状態だ、という宣言になります。

ALPA Japanの技術情報が、羽田を例に具体化しています。

  • カテゴリーⅡ/Ⅲが使えるRWY34RがUsing RWY“LVP”(進入も離陸も可)
  • カテゴリーⅠのみのRWY16LがUsing RWY“LVPD”(離陸のみ)
  • RWY34R in USEなのに “LVP FOR DEPARTURE IN FORCE” が流れたら、「(一時的に)カテゴリーⅡ/Ⅲ ILS進入の要件が満たされていない」という意味

そして、同資料が結びに置いた一文が重いところです。

LVPDは「離陸すること」に特化した設定であることから、緊急事態発生時の出発空港への引き返しは想定していないことに留意する必要があります。

上がれるが、戻れない。LVPDで離陸するというのは、そういう状態に入るということです。

② 「体制の通報基準」と「LVTOの定義」は別物 #

改正案への質問と回答に、細かいけれど効くやり取りがありました。

ある飛行場が「RVR500m未満で通報する」と定めていた場合、RVR400mでの離陸はLVP体制下であってもLVTOには該当しない——この理解でよいか、という質問です。

回答は「その理解で問題ありません」

LVTOはあくまで「RVR400m未満」という定義で、体制を通報する閾値とは連動しません。「LVPが出ている=LVTOをしている」ではない、ということになります。

機体側の基準との関係 #

カテゴリーⅡ/Ⅲの機体・乗員側は、別のサーキュラーが受け持ちます。サーキュラー5-002(カテゴリーⅡ航行の許可基準及び審査要領)と5-013(カテゴリーⅢ)で、いずれも令和6年3月29日最終改正です。

面白いことに、この2本を全文検索しても「LVP」「SSP」「ILS制限区域」という語は一度も出てきません。(「低視程」は5-002で28件、5-013で34件ヒットしますが、すべて訓練・整備・機上装置の文脈です。)

地上側と機体側で、文書がきれいに分かれている。これはGPSの基準を読んだときに見た構図——耐空性と運航の分業——と同じ形です。

残された宿題 #

改正時、パイロット側からはこういう意見も出ていました。

低視程離陸の施設要件は既にTKOF MINIMAに反映されており、パイロットはそのルールに従うのみと考え(略)事前に体制をとって準備するものではないと言えます

灯火やRVRが使えなくても、それに応じた離陸最低気象条件を適用するだけではないか。であれば管制官が「離陸できるかどうか」を通報する形は、本来パイロットが決めるべきTKOF MINIMAの適用可否の主体を曖昧にするのではないか——という指摘です。

回答は「LVP/LVPDの適用状況を通報することは、現行のSSP体制と同様の整理」であり、「その他の整理については継続検討」でした。

「体制」と「ミニマ」の主体をどう切り分けるかは、宿題として残っている。正直な回答だと思います。

ヘリの視点で #

率直に言えば、LVP/LVPDはヘリの日常運航にはほぼ無縁です。対象はカテゴリーⅡ/Ⅲ ILSを持つ9空港だけで、場外離着陸場にもヘリポートにも、多くの地方空港にも関係しません。

それでも押さえる価値があると思うのは、3点です。

① 「体制」と「ミニマ」は別物という整理。管制官が通報するのは体制であって、数値を適用するかどうかを決めるのはパイロットと運航者。これはRVR400mの世界に限った話ではありません。離陸最低気象条件を読むときも、同じ区別が要ります。

② ILS critical areaの保護は、地上を動く側にも関わる。LVP中はILS制限区域の保護が要件になります。整備や搬送でこれらの空港に入るとき、地上走行の制約がなぜ厳しくなるのか——その説明がここにあります。

③ 「上がれるが戻れない」状態が、制度として存在する。LVPDはまさにそれで、離陸だけを可能にする体制です。

パイロットとして思うこと #

この改正でいちばん感心したのは、「離陸に本当に必要なものは何か」を洗い直したことでした。

SSP体制は、カテゴリーⅡ/Ⅲ進入のための仕組みとして作られました。そこに離陸を相乗りさせた結果、ILSが使えないというだけで、灯火もRVRも揃っている滑走路から離陸できないという状態が生まれた。羽田16Lや新千歳01Lのように、最初からカテゴリーⅡ/Ⅲ進入がない滑走路では、そもそも低視程離陸の道がなかった。

要件を足し算で束ねると、要らないものまで必須になる。LVPDは、その束をほどいた結果です。

そしてもう一つ、“LVP FOR DEPARTURE” と読み上げる理由が「発音の類似を避けるため」という一文も、記憶に残りました。無線でLVPとLVPDを聞き分けるのは難しい。だから話し言葉では冗長にする。紛らわしさを設計段階で潰すという発想は、チェックリストの文言やコールアウトの作り方にそのまま通じます。

最後に、「上がれるが、戻れない」について。

LVPDで離陸するとき、その空港にはカテゴリーⅡ/Ⅲで戻る手段がありません。エンジン不具合でも、機内急病でも、出発空港へ引き返すという選択肢は事実上ない。だから離陸前に、どこへ戻るのかを決めておく必要があります。

これは規模こそ違え、山でも同じことをしています。群馬の事故報告書を読んだとき、どうなったら引き返すかを飛ぶ前に言葉にしておくと書きました。行けることと、戻れることは別——制度の側にも、同じ形の話がありました。

まとめ #

  • 2022年2月24日適用の管制方式基準改正で、日本独自のSSP体制が廃止され、LVP/LVPD/LVTOが定義された。要件はICAO Doc 9365がベース。
  • LVP(低視程体制)=カテゴリーⅡ/Ⅲ ILS及び低視程離陸を可能とする要件が整っている体制LVPD(出発用低視程体制)=カテゴリーⅡ/Ⅲの要件は整っていないが、低視程離陸の要件は整っている体制LVTO=RVRが400メートル未満の場合における離陸
  • 改正の動機は、進入と離陸が一体だったこと。降雪やILS機材更新でカテゴリーⅡ/Ⅲが使えないと離陸もできず、羽田RWY16L・新千歳RWY01LのようにカテゴリーⅡ/Ⅲ進入がない滑走路では、灯火もRVRも揃っているのにRVR400m未満で離陸できなかった
  • 管制用語は3つ。LVP in force(離陸○・CATⅡ/Ⅲ○)/LVP for departure in force(離陸○・CATⅡ/Ⅲ×)/LVP not available due to〔理由〕(両方×)
  • 無線で「LVPD」と言わないのは、「LVP」との発音の類似を避けるため(改正案への回答に明記)。
  • 確認項目の差が体制の差。LVPは灯火・RVR・二次電源に加えてカテゴリーⅡ/Ⅲ ILSの正常作動とILS critical areaの保護まで確認LVPDは灯火・RVR・二次電源のみ(Doc 9365の低視程離陸条件に後2つが含まれないため)。
  • 通報のトリガーは、到着機が雲高200ft未満又はRVR550m未満出発機がRVR400m未満(IFR出発機に限る)。いずれも飛行場ごとにこれを超える値を定めることができATISで受信済みなら省略可
  • 改正前は「カテゴリーⅡ/Ⅲが適用できない場合にその旨」だけを通報していた。改正後は「適用状況」を通報する。「言わないことが肯定」から「状態を名指しする」へ変わった
  • 対象は9空港(釧路・新千歳・青森・成田・羽田・中部・関西・広島・熊本)。中部・関西・熊本は進入用と離陸用でRVR値が異なる釧路と青森はATISがなく、出発機はTower・到着機はACCから提供。カテゴリーⅡ/Ⅲ ILSがない空港にはLVTOが設定されず、情報提供もない
  • “LVP for departure in force” は到着機にも通報される。到着機にとっては「カテゴリーⅡ/Ⅲ ILSは実施不可能」の意味。LVPDは引き返しを想定していない
  • 「LVPが出ている」=「LVTOをしている」ではない。LVTOはRVR400m未満という定義で、体制の通報閾値とは連動しない(改正案への回答で確認)。
  • 機体側はサーキュラー5-002/5-013(カテゴリーⅡ/Ⅲ航行の許可基準)が担当し、この2本にLVP・SSP・ILS制限区域という語は出てこない。地上側と機体側で文書が分かれている。
  • パイロット側からは「離陸の可否はTKOF MINIMAの問題でパイロットが決めるもの」という意見が出され、当局は「その他の整理は継続検討」と回答。「体制」と「ミニマ」の主体の切り分けは宿題として残っている

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本記事は、管制方式基準(航空保安業務処理規程第5 管制業務処理規程)の令和4年2月24日適用改正の条文および公開された改正資料、ならびに関係団体の技術情報に基づき、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。空港ごとの適用基準は導入時点のもので、最新の値は必ずAIP(AD 1.1.4.1および各空港のAD 2)をご確認ください。考察部分には筆者の私見を含みます。


出典

画像出典:Wikimedia Commons “Delta A220-100 landing in the fog on Runway 22L at Boston” by 4300streetcar(CC BY 4.0)。イメージ画像(霧の中に滲む滑走路灯火)。

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