ログブックの「野外飛行」欄には何を書くのか——回転翼の距離要件と、生地着陸の定義

ログブックの「野外飛行」欄には何を書くのか——回転翼の距離要件と、生地着陸の定義

ログブックの「野外飛行(CROSS COUNTRY FLIGHT)」欄。どこからが野外飛行なのか、はっきり答えられるでしょうか。

私は長いこと感覚で書いていました。調べてみたら、根拠は3層に分かれていて、肝心の定義は記入要領の外にありました。


根拠は3層になっている #

文書役割
省令航空法施行規則 第44条(飛行経歴等の証明)誰が証明するか
省令同 別表第二資格ごとに必要な飛行経歴
通達航空機乗組員飛行日誌記入要領(PDF)各欄の書き方
通達空乗第2129号「野外飛行の解釈及び運用について」(PDF)野外飛行の定義

記入要領は野外飛行の定義を持っていません。(12)項にこう書いてあるだけです。

野外飛行の解釈は空乗第2129号(平成6年11月16日付)「野外飛行の解釈及び運用について」のとおりである。

つまり記入要領だけ読んでも、野外飛行が何かは分からない構造になっています。

日常の記録には、距離の下限がない #

2129号の「2 その他」に、こうあります。

別表第二の「野外飛行」のうち飛行距離につき特段の規定がないものについては、航法技術の習得を目的とした飛行であれば、特に飛行距離は問わない

ログブックの(12)/(16)欄は、通常こちらです。何キロ以上という下限はありません。

判断基準は「航法技術の習得を目的とした飛行か」の一点。裏を返せば、場周経路や訓練空域での空中操作は、移動距離があっても野外飛行にはならない、ということになります。

なお野外飛行欄が2つあるのは、立場で分かれているからです。

  • (12) … (9)機長・(10)単独/副機長・(11)機長見習業務 で実施した分
  • (16) … (14)副操縦士・(15)同乗教育 で実施した分

「どの立場で飛んだか」の欄に時間を書き、そのうち野外飛行だった分を再掲する構造です。二重計上ではありません。

資格の経歴に使うときは、話が変わる #

別表第二には「出発地点から○○km以上の野外飛行で、中間において○○回以上の生地着陸をするもの」という書き方が出てきます。こちらには2129号の詳細な解釈が付きます。

① 総距離で見る #

出発地点から生地着陸地点を経由して最終目的地にいたるか又は元の出発地点に戻るまでの総飛行距離が規定されたキロ数以上の飛行

1本のレグで規定距離を飛ぶ必要はありません。各レグを合計した距離が規定値以上あればよい、と明記されています。

通達には図が2つ添えられています。は出発地点→生地着陸→生地着陸→最終目的地と一直線に進むパターン、は出発地点→生地着陸→生地着陸→出発地点に戻る三角形のパターン。戻ってきてもよいということです。

なお図に書かれている数値は飛行機の例(自家用270km以上/事業用540km以上)で、別表第二の飛行機の値です。回転翼の数値は通達には出てきませんので、別表第二を直接見る必要があります。

② 距離は直線距離で計算する #

ここが実務でいちばん効きます。

飛行距離は、実際に飛行した経路に沿った距離ではなく、出発地点と目的地点(生地着陸地点を含む)を直線で結んだ距離で算出する。

迂回しても距離は稼げません。空域や地形を避けて大回りした分は算入されない、ということです。ヘリの場合は山を回り込むことが多いので、実飛行距離と乖離しやすいところだと思います。

③ 生地着陸は「異なる地点」で #

「2回以上の生地着陸」とされている場合には、中間における少なくとも2回の生地着陸については、異なる地点において行うものとする。

同じ場所に2回降りてもカウントは1回です。

④ 生地着陸の定義 #

日常、離着陸訓練の基地として使用している飛行場以外の飛行場へのフルストップによる着陸を生地着陸という。

3つの条件が入っています。日常の「離着陸訓練の基地」以外であること/飛行場であること/フルストップであること。タッチアンドゴーは生地着陸になりません。

「離着陸訓練の基地」という限定に注意が要ります。単なる日常の運航拠点ではなく、訓練でいつも使っている飛行場を指す書き方になっています。

回転翼の数値 #

別表第二から、回転翼の該当箇所です。

資格野外飛行の要件
自家用(回転翼)出発地点から180km以上の飛行で、中間において2回以上の生地着陸をするものを含む、5時間以上の単独操縦による野外飛行
事業用(回転翼)出発地点から300km以上の飛行で、中間において2回以上の生地着陸をするものを含む、10時間以上の機長としての野外飛行(3時間以内は飛行機又は飛行船で充当可。飛行船は2時間限度)
計器飛行証明証明を受けようとする航空機の種類による10時間以上の飛行を含む、50時間以上の機長としての野外飛行

自家用は単独操縦、事業用は機長として。ここが違います。

条文の確認方法 #

別表第二は資格ごとの大きな表で、回転翼は各資格の「三 回転翼航空機について技能証明を受けようとする場合」に入っています。e-Govの別表第二から、

  • 事業用操縦士 → 三 回転翼航空機(総飛行時間150時間、または指定養成施設等で飛行訓練100時間)の(二)
  • 自家用操縦士 → 三 回転翼航空機(総飛行時間40時間、または指定養成施設等で飛行訓練35時間)の(二)

を見てください。150時間と100時間の2本のルートについては別の記事で書きました。

紛らわしい点をひとつ。事業用操縦士の行の中には「出発地点から180km以上」という記述も出てきますが、これは飛行船の項です(「飛行機又は回転翼航空機によるものをもつて充当することができる」と書かれているので、基準となる機種が回転翼でないことが読み取れます)。回転翼の自家用と同じ180kmなので、条文を追うときに混ざりやすいところです。

実地試験ではどう見られるか #

操縦士実地試験実施細則(回転翼・事業用)の「8.野外飛行」では、こう定められています。

8-1 野外飛行計画

  • 巡航速度で2時間以上の航程とし、経路途中の空港等(公共、非公共用ヘリポートを含む)で1回の離着陸を含む計画を作成させる
  • 少なくとも1経路については無線方位線上の飛行が可能な経路を指定
  • 30分以内に正確な計画を作成できること

8-2 野外飛行

  • 地点標定を正確に行い、予定経路の2海里以内を飛行できること
  • 少なくとも1回、風の算出および無線方位線上の飛行を行わせる
  • 少なくとも1経路については無線施設を利用しないで予定の経路を飛行させる

「空港等」に公共用・非公共用ヘリポートを含むと明記されているのが、回転翼らしいところです。

場外離着陸場は生地着陸になるのか #

ここが回転翼でいちばん引っかかる論点だと思います。答えは通達に書かれていません。

2129号の文言は「日常、離着陸訓練の基地として使用している飛行場以外の飛行場へのフルストップによる着陸」です。

  • 場外離着陸場は航空法第79条ただし書の許可を受けた場所であって、第38条の飛行場ではありません
  • 実地試験実施細則は「空港等(公共、非公共用ヘリポートを含む)」としており、ヘリポートは含むことが読み取れます
  • 場外離着陸場については、2129号にも実施細則にも記述がありません

条文どおりに読めば、場外は生地着陸に当たらないことになります。ただしこれは書かれていない領域の解釈なので、経歴として積む計画を立てるなら、事前に確認を取っておいたほうが安全だと思います。

あわせて、回転翼は同じ現場との往復が多い運航形態です。2129号の「少なくとも2回は異なる地点」に引っかかるので、経歴を狙うなら経路設計の段階から意識しておく必要があります。

記入要領の、回転翼で効くところ #

野外飛行以外にも、回転翼特有の注意があります。

内容
(7) 着陸回数連続離着陸を含めた回数。夜間はNを付して別数。回転翼はホバリングからの垂直離着陸を含まないオートローテーション着陸は(29)補足事項欄に記載
(9) 機長国空航第1517号に該当する時間。操縦教育を受ける者が機長席で操縦しても、同通達に該当する場合を除き機長時間にならない
(11) 機長見習業務等(29)にPUSと記入
(14) 副操縦士構造上一人で操縦できる航空機の機長以外の操縦時間は( )を付して区別
(15) 同乗教育技能証明を有していても、操縦教育を受けた場合は同乗教育
(20)(21) 装置国空乗第91号の認定を受けていない模擬飛行装置・飛行訓練装置は( )で区別

共通事項としては、航空機の種類ごとに日誌を分けること、青又は黒のインク又はボールペンを使い訂正の履歴が分かるようにすること、証明は施行規則第44条の方法によること(副操縦士業務→機長、単独飛行→操縦教員、同乗教育→監督者)。

飛行時間の定義も参考欄に書かれています。「離陸の目的をもって、自己の力によって最初に動き出す瞬間から、飛行終了後に静止に至る瞬間まで」。備考には「操縦席に着かずに行った航法練習の時間は飛行時間とならない」とあります。

まとめ #

  • 野外飛行の定義は記入要領になく空乗第2129号(平成6年11月16日)にある。
  • 日常の記録(12項/16項)は距離を問わない。別表第二で距離規定のないものは「航法技術の習得を目的とした飛行」であればよい。
  • 距離規定がある経歴の場合は、①各レグの合計でよい ②直線距離で算出(迂回分は算入されない) ③2回以上の生地着陸は異なる地点で ④生地着陸=日常の「離着陸訓練の基地」以外の飛行場へのフルストップ
  • 回転翼の要件は、自家用が180km・2回・5時間以上の単独操縦事業用が300km・2回・10時間以上の機長
  • 事業用操縦士の行にある180kmは飛行船の項。回転翼と混同しやすい。
  • 計器飛行証明は50時間以上の機長としての野外飛行(うち当該種類で10時間以上)。
  • 場外離着陸場が生地着陸に当たるかは、通達に記述がない。文言上は飛行場に限られる。
  • 回転翼の記入で特有なのは、着陸回数にホバリングからの垂直離着陸を含めないこと、オートローテーション着陸を補足事項欄に書くこと。

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本記事は、航空法施行規則および国土交通省航空局の通達に基づき、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。通達は改正されます。実務で用いる際は必ず最新版をご確認ください。定期運送用操縦士の要件については本記事では扱っていません。

ヒーロー画像はイメージです。“Pilot logbook (pages)” by Basil Newburn / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0(本記事への掲載にあたりリサイズを行いました)


出典

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