LOI、APPROACH DOWNGRADE、ABORT APPROACH——完全性が足りないとき、GTNは何を表示するか
前回のRAIMの記事で、SBASの世界では判定がVPL(垂直保護レベル)とVAL(垂直警報限界)の比較に替わる、と書きました。
では——その限界を超えたとき、コックピットには実際に何が出るのか。
条文は「警報を提供しなければならない」で終わります。その先を、機器メーカーの資料で見てみます。
確認した資料 #
| 資料 | 番号 | 性格 |
|---|---|---|
| GTN Xi Series Pilot’s Guide | 190-02327-03 Rev. G | 操作マニュアル |
| AFMS(飛行規程補足)Garmin GTN Xi GPS/SBAS System | 190-01007-C2 Rev. 5 | FAA承認 |
いずれもGTN Xi系(650Xi/750Xi)の資料です。無印のGTN 750も考え方は同じですが、以下の文言はXiの資料で確認したものであることをお断りしておきます。
Pilot’s Guideは「こう表示されます」、AFMSは「こうしなさい」。両方あると、表示と処置がつながります。
① 常時出ている「GPSステータス」 #
まず、平常時から出ている表示です。
| 表示 | 意味 |
|---|---|
| Acquiring | 最後の既知位置と衛星軌道データから、どの衛星が見えるはずかを判断中 |
| 3D Nav | 3次元航法モード。衛星データから高度を計算 |
| 3D Diff Nav | 3次元航法モード。SBASプロバイダからの差分補正を使用中 |
| LOI | 衛星のカバレッジが、内蔵の完全性監視テストを通すのに不十分 |
MSAS圏内で普段見ているのは「3D Diff Nav」です。SBASプロバイダの一覧には「MSAS — Japan only」という行があります。
そしてマニュアルに、見逃せない注記があります。
Operating with SBAS active outside of the service area may cause elevated EPU values to display on the status page. Regardless of the EPU value displayed, the LOI annunciation is the controlling indication for determining the integrity of the GPS navigation solution.
EPUの数値がどうであれ、完全性の判定を支配するのはLOI表示。推定位置誤差の数字を見て自分で判断するな、ということです。
数字ではなく、旗を見る。RAIMの記事で「精度と完全性は別」と書きましたが、その区別が操作マニュアルの注記に現れています。
② 飛行フェーズ表示——黄色は「予告」 #
アナンシエーター・バーには ENR TERM LNAV LNAV+V LPV LP DPRT DR などが出ます。ここに、実務でいちばん効く仕掛けがあります。
Under normal conditions, these annunciations are green. They turn yellow when cautionary conditions exist.
A caution alerts you when the GPS/WAAS accuracy required for the displayed service level has not been met within the last 30 seconds. This means that an approach downgrade or failure may occur.
黄色は「もう落ちた」ではなく「落ちるかもしれない」。直近30秒で、表示中のサービスレベルに必要な精度が満たせていない、という予告です。
マニュアルはこう続けます。
Always monitor flight phase annunciations and system messages for any change in status.
進入中にこの色の変化に気づけるかどうかが、その先の展開を分けます。
③ 限界を超えたとき——LPV進入の実際の流れ #
Pilot’s GuideのLPVシーケンスが、そのまま答えになっています。
正常なら、こう進みます。
| タイミング | 起きること |
|---|---|
| 目的地の31NM以内 | ENR → TERM、CDIが2.0NM → 1.0NM |
| 初期進入フィックス接近 | ウェイポイント・メッセージ、Time to Turn(10秒カウントダウン) |
| FAF接近 | TERM → LPV |
| FAFの2.0NM手前 | CDIが1NMから角度スケーリングへ |
| FAFの60秒前 | システムがGPS位置の完全性が進入の限界内にあることを検証 |
そして限界を超えたら、2段階で落ちます。
If GPS integrity exceeds the horizontal and/or vertical alarm limits: ・Approach downgrades to non-precision ・“LNAV” annunciates on Map ・Advisory message: “GPS approach downgraded. Use LNAV minima.” ・Glideslope indication disappears ・Pilot continues approach using LNAV non-precision minimums, if applicable
If GPS integrity does not meet the non-precision horizontal alarm limits: ・Advisory message: “Abort Approach. GPS approach is no longer available.” ・Pilot acknowledges message ・Unit reverts to terminal limits of 1 NM to support navigation to the missed approach
まとめると、こうなります。
| 状況 | 表示 | できること |
|---|---|---|
| 正常 | LPV | LPVミニマ |
| 垂直/水平のアラームリミット超過 | LNAV+“GPS approach downgraded. Use LNAV minima.”+グライドスロープ消滅 | LNAVミニマで継続可 |
| 非精密の水平リミットも未達 | ”Abort Approach. GPS approach is no longer available.” | 進入中止(装置はTERMの1NMへ復帰) |
垂直だけ落ちればLNAVで降りられる。横も落ちたら、進入そのものが終わる。この2段構えが要点です。
LP+Vには例外がある #
If the approach indicates “LP+V,” then advisory vertical guidance may be removed without indication(略)This does not constitute a downgrade. You may still fly the approach to LP minimums.
参考表示の垂直誘導は、予告なく消えることがある。しかしダウングレードではないので、LPミニマでそのまま飛べます。
AC 20-138Dが「advisory vertical guidanceには性能基準がなく、運航上のクレジットを主張できない」と書いていたことの、現物での現れ方がこれです。もともと当てにしてよい線ではないから、消えても降格にならない。
④ メッセージの実文言 #
| メッセージ | 本文 | 条件 |
|---|---|---|
| LOSS OF INTEGRITY (LOI) | Verify GPS position with other navigation equipment. | GPSボードがLOIを報告。アンテナが遮蔽されている可能性 |
| APPROACH DOWNGRADE | GPS approach downgraded. Use LNAV minima. | LPV又はLNAV/VNAVからLNAVへ降格。垂直誘導が利用不可に |
| ABORT APPROACH | GPS approach is no longer available. | GPSが進入レベルのサービス(LPV, LNAV, LNAV+V, L/VNAV)を提供できない |
| APPROACH NOT ACTIVE | Approach guidance not available. | 進入がアクティブに移行できない(例:LNAVに必要なHPL/VPLがないため、装置がTERMのまま) |
| GPS NAVIGATION LOST | Insufficient satellites. / Erroneous position. | 衛星不足、又は誤った位置 |
4つ目が、まさに「保護レベル」そのものです。
「LNAVに必要なHPL/VPLを持っていないので、装置がTERMのまま」——HPL/VPLという語が、パイロット向けのマニュアルにそのまま出てきます。保護レベルは理論上の概念ではなく、進入がアクティブにならない理由として画面に出るものだ、ということです。
ABORT APPROACHの推奨処置も明確です。
Initiate a climb to the MSA or other published safe altitude, abort the approach, and execute a non-GPS based approach.
MSA又は公示された安全高度へ上昇し、進入を中止し、GPS以外の進入を実施する。
⑤ FAF前後で、警報の名前が変わる #
Pilot’s Guideの「GPS Alerts」表が、これを分けています。同じ「完全性が足りない」でも、FAFの前と後で扱いが違います。
| 表示 | 種別 | 条件 |
|---|---|---|
| 黄色「LOI」 | Loss of Integrity | GPS位置の完全性が現在の飛行フェーズの要件を満たさない。FAFの手前で発生する(進入がアクティブな場合) |
| コースガイダンスが無効化される(表示は原因ごと) | Loss of Navigation | ・FAF通過後にGPS完全性が進入要件を満たさない ・位置計算に十分な衛星がない状態が5秒を超える ・time to alert 内に排除できない過大な位置誤差や故障をGPSセンサーが検知 ・機上ハードウェアの故障 |
| 黄色「No GPS Position」(自機シンボル消失) | Loss of Position | 位置解が求められない |
FAF前ならLOI、FAF後ならLoss of Navigation。そして後者はコースガイダンスそのものが無効化されます。
3つ目の条件に注目してください。「time to alert 内に排除できない」——FDE(排除)が間に合わなかった場合、という意味です。探知・排除・警報という順番が、そのまま条件文になっています。
⑥ FAA承認のAFMSは、何をしろと書いているか #
Pilot’s Guideは説明書ですが、AFMSは飛行規程補足——つまり守るべき手順です。
3.2.1 LOSS OF GPS/SBAS NAVIGATION DATA
the GTN Xi will enter one of two modes: Dead Reckoning mode (DR) or Loss Of Integrity mode (LOI). The mode is indicated on the GTN by an amber “DR” and/or “LOI”.
If the LOI annunciation is displayed, revert to an alternate means of navigation appropriate to the route and phase of flight.
代替手段がない場合の処置が、さらに踏み込んでいます。
LOSS OF INTEGRITY (LOI) MODE (no DR annunciated): Navigation … FLY TOWARDS KNOWN VISUAL CONDITIONS
NOTE: All information derived from GPS will be removed.
「既知の有視界状態に向かって飛べ」。飛行規程に、この一行が書いてあります。
3.2.2 GPS APPROACH DOWNGRADE
the GTN Xi will downgrade the approach. The downgrade will remove vertical deviation indication from the VDI and change the approach annunciation to LNAV. The approach may be continued using the LNAV only minimums.
ABORT APPROACHのときの装置の挙動(同じ節)
the GTN Xi will flag all CDI guidance and display a system message “ABORT APPROACH-GPS approach no longer available”. Immediately upon viewing the message, the unit will revert to Terminal navigation mode alarm limits. If the position integrity is within these limits lateral guidance will be restored and the GPS may be used to execute the missed approach, otherwise alternate means of navigation must be utilized.
いったん全部フラグが立ち、ターミナルの警報限界に戻して、そこに収まれば横ガイダンスだけ戻る。進入復行をGPSで飛べるかどうかが、そこで決まります。
「進入は無理でも、進入復行の航法は残るかもしれない」——この設計思想は、知っておく価値があると思います。
⑦ 外部アナンシエーターがある機体は「INTG」かもしれない #
AFMSのパワーオン・セルフテストの項に、こうあります。
Self-Test - GPS Remote Annunciator (if installed): VLOC / GPS / LOI or INTG / TERM … ILLUMINATED
機体によっては「LOI」ではなく「INTG」と書かれたランプが付いています。同じものを指す別表記です。自分の乗る機体でどちらなのか、確認しておくとよさそうです。
条文の「中止すべき事態」と、画面の対応 #
ここまで見た表示を、日本の条文と突き合わせてみます。5-017 附属書5は、RNP APCHで継続してはならない4つの事態を挙げていました。
| 5-017 附属書5が挙げる事態 | GTNでの現れ方 |
|---|---|
| ナビゲーション・ディスプレイに無効表示が示された | No GPS Position/CDIガイダンスのフラグ |
| 完全性警報が発出された | 黄色LOI/LOSS OF INTEGRITY メッセージ |
| FAFを通過するより前に完全性警報機能が利用できないと表示された | LOI/APPROACH NOT ACTIVE(HPL/VPL不足でTERMのまま) |
| FTEが超過した | (装置は判定しない。操縦者がCDI偏位で判断) |
そして附属書10 LP/LPVは、FAP通過後の中止事由に「垂直方向のガイダンスの喪失(横方向のガイダンスが表示されている場合も含む)」を挙げていました。
これはまさに、APPROACH DOWNGRADEが起きた状態です。画面上は「LNAV」に変わり、横の針は生きている。それでも、LPVとして降りるつもりだったなら中止——条文と画面が、ここできれいに噛み合います。
もう一つ。5-005 4-2-2-3は、RAIMを失ったときの手順をこう定めていました。
RAIM機能又はこれと同等な機能が喪失した場合には、独立型衛星航法装置以外の航法装置を常時監視することにより(略)それができない場合又はRAIM警報が発出された場合には、管制機関に連絡し、GPSに依存しない航法による経路に移行しなければならない。
AFMSの「revert to an alternate means of navigation」と、同じことを言っています。条文が求める行動が、機器メーカーの飛行規程補足にも書かれている——日本の通達とGarminのAFMSが、同じ動作を指しているわけです。
パイロットとして思うこと #
一連の表示を並べてみて、いちばん感心したのは「落とし方」が丁寧に設計されていることでした。
いきなり全部消えるのではありません。まず黄色で「30秒間、必要な精度に届いていない」と予告する。次に垂直だけ落としてLNAVに降格させる。それも駄目なら進入を中止させ、しかしターミナルの限界に戻して横ガイダンスだけでも復活させ、進入復行に使わせようとする。
使えるものを、最後まで使わせる。そういう設計です。
そして、パイロット側に求められていることも、はっきりしています。色と文字を見ること。EPUの数字ではなくLOIの旗を見る、緑が黄色になったら身構える、LPVがLNAVに変わったらグライドスロープを当てにしない。
前回、RAIMの限界としてスプーフィングの話を書きました。旗が出ない嘘には気づけない。だからこそ、出た旗は確実に拾う——できることは、そこまでです。
ヘリの現場でGTN系を積んでいる機体は多いはずです。自分の機体のアナンシエーターが「LOI」なのか「INTG」なのか。次に乗るときに見ておこうと思います。
まとめ #
- 確認資料はGTN Xi Series Pilot’s Guide(190-02327-03 Rev. G)とFAA承認のAFMS(190-01007-C2 Rev. 5)。いずれもGTN Xi系(650Xi/750Xi)。
- GPSステータスはAcquiring/3D Nav/3D Diff Nav/LOIの4種。MSAS圏内の平常時は「3D Diff Nav」。SBASプロバイダ一覧に「MSAS — Japan only」。
- EPUの数値がどうであれ、完全性判定を支配するのはLOI表示とマニュアルが明記。数字ではなく旗を見る。
- 飛行フェーズ表示は通常は緑、注意状態で黄色。黄色の意味は「表示中のサービスレベルに必要なGPS/WAAS精度が直近30秒間で満たされていない」=ダウングレード又は失敗が起こりうる予告。
- LPVはFAFの60秒前にシステムが完全性を検証する。目的地31NMでENR→TERM、FAF接近でTERM→LPV、FAF2NM手前で角度スケーリング。
- 限界超過は2段階。①水平/垂直のアラームリミット超過→LNAVへ降格、“GPS approach downgraded. Use LNAV minima.”、グライドスロープ消滅(LNAVミニマで継続可)②非精密の水平リミットも未達→“Abort Approach. GPS approach is no longer available.”(TERMの1NMへ復帰)。
- LP+Vの参考垂直誘導は予告なく消えることがあるが、ダウングレードではない(LPミニマで継続可)。
- メッセージAPPROACH NOT ACTIVEの条件は「LNAVに必要なHPL/VPLがないため装置がTERMのまま」。保護レベルは画面に出る概念。
- 警報はFAFの前後で名前が変わる。前はLOI(Loss of Integrity)、後はLoss of Navigationでコースガイダンスが無効化される。後者の条件には「time to alert内に排除できない過大な位置誤差」=FDEが間に合わない場合が含まれる。
- AFMSの処置は、LOI表示なら代替航法手段へ移行。代替がないLOIモードでは「FLY TOWARDS KNOWN VISUAL CONDITIONS」。
- ABORT APPROACH時、装置は全CDIガイダンスにフラグを立てた後、ターミナルモードの警報限界に戻す。その限界内なら横ガイダンスが復活し、進入復行にGPSを使える。
- 外部アナンシエーターは機体により「LOI」又は「INTG」。
- 条文との対応——5-017 附属書5の「継続してはならない4事態」は、No GPS Position/LOI/APPROACH NOT ACTIVE/(FTEは操縦者判断)に対応。附属書10の「FAP通過後の垂直ガイダンス喪失」は、まさにAPPROACH DOWNGRADEが起きた状態。5-005 4-2-2-3の「GPSに依存しない航法へ移行」は、AFMSの”revert to an alternate means of navigation”と同じ動作を指している。
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本記事は、Garminが公開しているGTN Xi Series Pilot’s Guide及びAFMS(飛行規程補足)の記述に基づき、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。表示や手順は機種・ソフトウェアバージョン・装備構成により異なります。実際の運航にあたっては、必ず当該機の飛行規程及び装備品のマニュアルをご確認ください。考察部分には筆者の私見を含みます。
出典
- Garmin GTN Xi Series Pilot’s Guide(190-02327-03 Rev. G。GPSステータス、飛行フェーズ表示、LPV/LP進入シーケンス、メッセージ一覧、GPS Alerts) https://static.garmin.com/pumac/190-02327-03_g.pdf
- Garmin AFMS, Garmin GTN Xi GPS/SBAS System(190-01007-C2 Rev. 5、FAA APPROVED。異常時手順、失敗メッセージ、セルフテスト) https://static.garmin.com/pumac/190-01007-c2_05.pdf
- 国土交通省航空局 サーキュラー No.5-017「RNAV航行の許可基準及び審査要領」附属書5 RNP APCH/附属書10 LP/LPV(令和6年3月29日最終改正)
- 国土交通省航空局 サーキュラー No.5-005「GPSを計器飛行方式に使用する運航の実施基準」(令和7年3月13日最終改正)
- FAA Advisory Circular AC 20-138D(Change 2を含む)
画像出典:Wikimedia Commons “Mooney M20J Plane Flight Instrument Panel” by Tony Webster(CC BY-SA 4.0)。イメージ画像(GPSナビゲーターを備えた計器盤の例。本文で扱うGTN Xiとは機種が異なります)。
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