AC 20-138Dを読む——日本の基準が一行で参照している261ページに、ヘリ専用の章があった
ここまでVFRでGPSを使う基準(5-006)、TSO-C146、IFRでGPSを使う基準(5-005)と読んできました。
その5-005の装置要件には、毎回この一行が付いています。
米国FAAのアドバイザリー・サーキュラーAC20-138(その後の改訂版を含む。)に従って装備されたもの
日本の通達が名指ししている、その参照先を開いてみます。
現行はAC 20-138D「Airworthiness Approval of Positioning and Navigation Systems(測位・航法システムの耐空性承認)」。基本版が2014年3月28日、Change 1が2014年10月10日、Change 2が2016年4月7日で、FAAのAC一覧では現在もActiveです。分量は全23章+附録10本、261ページ。
一行で参照されている中身が、これだけあります。
まず、誰のための文書か #
対象となる装備は4つ。
- GPSのセンサー又はスタンドアロン航法装置(ABAS/SBAS/GBASによる補強を含む)
- 複数の航法センサー(GNSS、IRU、DME)を統合したRNAV
- RNP運航のためのRNAV(advanced functions及びRNP ARを含む)
- Baro-VNAV(気圧高度による垂直航法)
そして読者の指定が明快です。
This AC is for aircraft manufacturers, avionics manufacturers, installation shops, or other applicants seeking design and/or airworthiness approval
機体メーカー、アビオニクスメーカー、装備工場。パイロットは想定読者に入っていません。5-005・5-006が「飛ばす人のルール」なのに対し、これは「作って積む人の基準」です。
文書の性格も明記されています。
This AC is not mandatory and does not constitute a regulation. This AC describes an acceptable means, but not the only means… However, if you use the means described in the AC, you must follow it in all important respects.
義務でもなければ規則でもない。しかし採用するなら、重要な点すべてで従え。ACという文書の位置づけがそのまま出ています。
耐空性と運航の分業が、はっきり書かれている #
第1章のFAQに、この文書の立ち位置を説明した箇所があります。
It is important to differentiate between operational limitations and equipment performance limitations. AC 20-138D addresses equipment performance limitations while the 90-series ACs produced by Flight Standards address operational limitations…
AC 20系=装置の性能限界(耐空性)/AC 90系=運航上の限界(運航)。そして続けて、
operational rules dictate the navigation equipage requirements. It is up to the operator to determine how to comply based on their specific operating rules and mission needs.
何を積まなければならないかを決めるのは運航規則であって、装置側の文書ではない。
実際、この改訂でAC 20-129(VNAV)/AC 20-130A(マルチセンサー航法・FMS)/AC 25-4(慣性航法)が廃止され、AC 90-101(RNP AR)とAC 90-105(RNP/Baro-VNAV)の耐空性部分だけが吸収されました。90シリーズの運航ガイダンスは残る、と明記されています。
日本で言えば、AC 20-138Dが装置側、5-005が運航側。同じ分業が日米で対応しています。
この文書で最も引用されるべき一文 #
第2章、TSOAの節の冒頭です。
Obtaining a TSOA/LODA does not ensure that the equipment will satisfy all of the applicable operational requirements and/or airworthiness regulations when it is installed.
TSOAを取ったからといって、装備したときに運航要件や耐空性規則を満たすとは限らない。
TSO-C146の記事で「TSOAは設計・製造の承認であって装備の承認ではない」と書きましたが、その根拠はここにあります。理由も4つ挙げられています。
- TSOA/LODAは装備後の適合を保証しない
- 装置が複雑化しワークロードも高いのに、パイロット・インターフェースの標準が存在しない(ヒューマンファクター評価は主観的になりうる)
- 表示器・オートパイロット・地形警報などとの接続に単一の標準がない
- ソフトウェア/ハードウェアの設計保証レベルが、装備先の適格性を制限しうる(例:DO-178B Level Cで作った装置は、より高い保証レベルを要する系統に関わると装備できないことがある)
②が個人的にいちばん刺さりました。ILSやVORと違い、GPS航法装置は操作系に共通規格がない。5-005の第9章が「ILS受信機やVOR受信機と異なり(略)それぞれの装置により大きく異なる」として教育訓練を義務づけているのは、この事情の裏返しです。
FAQに7ページ割かれている #
ACとしては珍しく、第1章の1-4がまるごとFAQです。中でも読み応えがあるのが「RNAVかRNPか」。
Q: TSO-C129(AR) Class A1 GPS と TSO-C146(AR) Class Gamma GPS/SBAS はRNAVシステムか、RNPシステムか? A: Both.
理由は、RNPがRNAVの部分集合で、そこにon-board performance monitoring and alerting(機上の性能監視と警報)が加わったものだから。GNSSは監視と警報を備えるので、定義上どちらでもある。
そしてその先の一文が効いてきます。
an RNAV(GPS) approach is an RNP procedure where the initial, intermediate, and missed approach segments are RNP 1.0. The LNAV final approach segment is RNP 0.3.
RNAV(GPS)進入は、実はRNP手順。初期・中間・進入復行がRNP 1.0、LNAVのファイナルがRNP 0.3。チャートに「RNP」と書かれていなくても、中身はそうなっています。
ただしRNP ARは全くの別物とも念押しされます。C129 Class A1もC146 Class Gammaも、追加の機体・乗員承認なしにはRNP ARに使えず、承認されていない装置のデータベースにRNP AR手順を入れてはならない。RNP ARの進入方式はRNAV(RNP)と題され、チャートに”authorization required”と印刷される、とも書かれています。
TSOの現況(第3章) #
前回のTSO-C146の記事を補強する情報が並んでいました。
- TSO-C129aは2011年10月21日にキャンセル済み。ただし既存のTSOAは取り消さず、生産も装備も継続でき、新規の耐空性承認も受けられる。新規のC129a TSOAは出ない。既存設計の大幅変更にはC145d/C146d/C196bへの新規申請が必要
- RTCA/DO-229Dは、単周波GPS/SBAS装置のMOPSとして今後も残る。多周波・多コンステレーション装置は別のMOPSと別のTSOになる
- 改訂版の差分:b→cはDO-229Dの3dBブロードバンド雑音クレジットの廃止(運用クラス3・4はb版のままc版に該当し、追加評価は不要)。c→dはTSO-C204/C205のカード認容とDO-229D Change 1の採用
- C161a/C162a(GBAS)はRNAV能力を一切扱わない。初期・中間・進入復行のRNAVは、機体側のGBAS統合で手当てする。C161a装置はC145d/C146d/C196bのTSOAも併せて必要。CAT Iを超える要件は未検証のため発動されていない
「advisory(諮問的)垂直誘導」に一章割いている #
第4章がまるごと、advisory vertical guidance——参考表示としての垂直誘導です。
There are no TSO requirements or MOPS standards regarding advisory vertical guidance minimum performance or how advisory vertical guidance is generated… the equipment manufacturers cannot claim any operational or certification credit for advisory vertical guidance.
性能基準が存在しない。だから運航上・認証上のクレジットを主張してはならない。そのうえで、飛行規程に載せるべき制限の文言まで例示されています。
“Advisory vertical guidance deviation information is only an aid to help pilots comply with altitude restrictions. When using advisory vertical guidance, the pilot must use the primary barometric altimeter to ensure compliance with all altitude restrictions, particularly during instrument approach operations.”
第5章の5-7も、同じことを別角度から言います。
GNSS-provided geometric altitude is not adequate for compliance with air traffic control altitude requirements… The primary barometric altimeter must be used for compliance with all air traffic control altitude regulations, requirements, instructions, and clearances.
状況認識の向上には使ってよく、気圧高度源とは明確に区別すること、GSL(GNSS sea level)というラベルを使ってよい、とまで書かれています。
5-005の2-2-2「垂直面の位置情報を高度情報として使用しないこと」は、思想としてここと同じ場所に立っています。
なおクラス4(Class Delta)には固有の制限があります。LPのミニマへのadvisory垂直誘導は可。しかしLPVからLNAVへ「fail-down」したときにadvisory垂直誘導を出してはならない——承認された垂直誘導と参考表示の区別が付かなくなり、どのミニマが適用されるか混乱するから、という理由です。
「5分」の出どころ #
5-2.3の予測プログラムの節に、5-005を読んだときに引っかかった数字がそのままありました。
(1) For approach operations, the maximum RAIM or FDE outage duration cannot exceed 5 minutes.
| 運航 | RAIM/FDE中断の許容上限 |
|---|---|
| 進入 | 5分 |
| RNAV 1/RNAV 2(C129(AR)/C196(AR)が唯一の手段の場合) | 5分 |
| 洋上・遠隔 RNP 4.0 | 25分 |
| 洋上・遠隔 RNP 10 | 34分 |
| MNPS | 51分 |
5-005が進入について定める「5分を超えて継続して失われることが予測される場合」と、数字が一致しています。日米の基準が同じ根っこを見ていることが、ここではっきりします。
予測プログラム側の要求も具体的です。マスク角はエンルート/ターミナルで2度以上、進入で5度以上。進入予測はETAの前後±15分以上を、5分以下の刻みで計算する。ソフトウェアはDO-178B/Cのlevel D以上。機上装置と同一のアルゴリズムか、より保守的な結果を出すもの。予期される衛星の停止を手動または自動で指定できること。
そして運用面の注記が実務的です。
The FAA has transitioned to the service availability prediction tool (SAPT) for RAIM predictions… However, SAPT does not provide FDE predictions for oceanic operations.
SAPTは洋上のFDE予測をやってくれない。5-005が洋上・遠隔で「承認されたFDE利用可能性予測プログラム」を別途求めているのは、こういう事情と噛み合っています。
ヘリコプター専用の章がある——9-5 Rotorcraft Enroute RNP 0.3 #
この文書で一番ヘリに刺さるのがここです。エンルート、ターミナル、出発、到着、そしてオフショアのための、回転翼機専用のRNP 0.3。
Rotorcraft enroute RNP 0.3 is based on GPS/SBAS equipage and the rotorcraft must be approved for IFR operations… It is not acceptable to use GPS or DME/DME/IRU for rotorcraft enroute RNP 0.3 operations.
GPS単独では不可。DME/DME/IRUでも不可。SBAS補強が必須。理由は「GPS/SBASが提供する既知の機能・性能・可用性を活かすため」と書かれています。TSO-C146の話が、ヘリの運航資格に直結しているわけです。
装置の要件は、スタンドアロンならTSO-C146(AR) クラス1、2又は3、マルチセンサーのセンサーならTSO-C145(AR) クラス1、2又は3。マルチセンサー本体はTSO-C115b以降。いずれもIFR用として本ACに従って装備されていること。
性能要件を並べます。
| 項目 | 要求 |
|---|---|
| 横方向のトータル・システム・エラー | ±0.3NM を全飛行時間の95%以上 |
| along-track誤差 | ±0.3NM を95%以上 |
| FTE(操縦技術誤差) | 0.25NMを超えないこと |
| 性能監視・警報 | 横TSEが0.6NMを超える確率が10⁻⁵を上回れば警報 |
| Signal-in-Space | 位置誤差0.6NM超の確率が10⁻⁷/時を超えれば警報 |
| 横偏位表示 | フルスケール偏位 ±0.3NM、RNP計算経路に自動追従 |
| 完全性 | 警報なしにTSEがRNP値の2倍を超える故障=Major |
継続性の分類が、運航の性格をよく表しています。
- オフショア・遠隔地域:機能喪失はMajor。独立した2系統の長距離航法装備が必要
- 国内:他の航法システムに移行して適切な空港へ安全に進めるならMinor
システム要件には、AIRACサイクルで更新できる航法データベース、有効期間の表示、ウェイポイント/航法援助施設のデータを呼び出して経路を確認できること、手順や経路のセグメント全体をデータベースからロードできること、IF/CF/DF/TFのパス・ターミネータを自動で処理できることなどが並びます。データベースは操縦者による改変から保護されていること——ここも5-005の第6章と同じです。
そして、ヘリのパイロットとして最も具体的なのがここでした。
For all rotorcraft enroute RNP 0.3 operations, the use of an autopilot and/or FD is an acceptable means of complying with the FTE assumption… Note: Some rotorcraft may need a stability augmentation system to achieve 0.25 NM FTE during manual flight.
手動飛行で0.25NMのFTEを保つには、機種によってはSASが要る。FAAがそう書いている。さらに、
a single-pilot rotorcraft could have a limitation to use an autopilot when conducting IFR operations. This limitation would also apply to rotorcraft enroute RNP 0.3 capability.
IFRでオートパイロット必須の制限がある機体は、RNP 0.3でもその制限が付いて回る。装置の能力ではなく、機体の制限が上限を決める——という構図が、ここでも繰り返されています。
Appendix 6:VFR専用GNSSの装備 #
5-006を読んだ人には、見覚えのある内容です。
GNSS equipment may be installed on a no-hazard basis as a supplement to VFR navigation… Loss of or misleading VFR navigation information is considered a minor hazard failure condition; therefore, it is acceptable to have development assurance level D…
そして、
install the following placard in the vicinity of the GPS and in clear view of the pilot: GPS APPROVED FOR VFR USE ONLY.
「GPS APPROVED FOR VFR USE ONLY」。日本の5-006が求める「本GPS装置は有視界飛行方式での使用に限る」と、発想も文言も対応しています。
FAA側の細かい規定も参考になります。
- 起動時にメッセージを自動表示し、パイロットの操作でクリアさせる方式なら、標識は不要
- AFMS/RFMSは不要(標識または表示が制限を含んでいるから)
- 適用範囲は非与圧・6,000ポンド未満で、改造がminor alterationに分類されるもの
- 装備位置は、着座位置から見えて手が届くこと。そして次を妨げないこと——操作器・表示器・計器へのアクセスや視認/操縦装置の動き/飛行経路の視界/乗員・乗客の脱出
最後の4条件は、コックピット周りをクリーンに保つ話と同じ発想の延長にあります。視界と操縦と脱出を邪魔しないことが、装備の段階で条件になっている。
12-7:能力があっても、機体が資格を持たないなら「禁止」する #
第12章に、これまでの3本を一本に束ねる規定があります。
Positioning and navigation avionics might have optional TSO functions that are not supported at the aircraft level after installation. The avionics must have the functions inhibited through configuration settings (e.g., strapping, software, etc.) or through database management processes if the aircraft is not qualified to perform those functions. The AFM(S)/RFM(S) must contain an appropriate entry for any limitations.
例として挙がっているのがRFレグです。アビオニクス側はRFレグの承認を持っていても、機体にロールステアリングのオートパイロットやRFレグを描ける表示がなければ、その機能を殺さなければならない。
「装置の能力と、その機体で許された役割は別」——これまで運航側の話として書いてきたことの、耐空性側の根拠がこれです。あわせて、PBN能力と運航上の限界をまとめた記述をRFM(S)に載せることが推奨され(附録5にサンプルがあります)、運航許可を出す当局と乗員の双方が助かる、とされています。
15-10:ミッション用GNSSは、そもそも土俵が違う #
A special approval category for GNSS equipment is “Special Use — Not for Navigation.” Systems that are installed for special use (agriculture, search and rescue, etc.) that will not be used for aircraft positioning or navigation can be approved on a non-interference basis using less strict airworthiness approval methods. Field approvals are normally acceptable…
捜索救難や農業用途で、航法・測位に使わないGNSSは、干渉しないことを条件に緩い方法で承認できる。検査官は、その装置を実際に使う状況の機動を含めた飛行評価を行い、必要系統に干渉しないことを確認すべき、とも書かれています。
現場のヘリには効く区分です。ただし条件は「航法に使わない」こと。ここを踏み外すと、途端に第5章や第9章の世界に入ります。
Appendix 8:GPS以外の衛星群について #
No FAA TSO exists for GLONASS, GPS/GLONASS, multi-constellation or dual-frequency avionics. Therefore, adding capability for any other constellation or dual-frequency capability must be accomplished as a non-TSO function… Non-U.S. constellations or other frequencies must not be used to supplement or aid GPS, GPS/SBAS, GPS/GBAS performance requirements or GPS RAIM prediction requirements. No operational credit should be expected…
他国の衛星群を足してもよいが、GPS側の性能要件やRAIM予測を補ってはならず、運航上のクレジットも期待するな。飛行規程に制限として書け、とも。基本版が2014年、Change 2が2016年という時点の文書なので、この附録は「将来に向けた予備的情報」という位置づけです。
なお、日本のMSASがみちびき(QZSS)3号機のL1Sbで配信されているのは「SBASによる補強」の話で、この附録が扱う「測位のコンステレーションを追加する」話とは別の層になります。混同しやすいところです。
構成そのものが語っていること #
23章の並びが、そのまま承認の道筋になっています。
| ブロック | 章 |
|---|---|
| TSOA・耐空性承認の一般論 | 第2〜3章 |
| 装置の性能(advisory VNAV/GNSS/マルチセンサー/RNP/RNP洋上/Baro-VNAV) | 第4〜11章 |
| 装備上の考慮(一般/アンテナ/センサー/GNSS/マルチセンサー/RNP/Baro-VNAV) | 第12〜18章 |
| データ提出 | 第19章 |
| 試験(一般/GNSS/マルチセンサー/Baro-VNAV) | 第20〜23章 |
「性能→装備→提出→試験」。そして附録に、RNP AR、advanced RNP機能、ADS-B支援のためのGNSS試験(速度精度、NAC_V、HAE出力)、飛行規程補足のサンプル、VFR専用装備、RFレグのデモ用テンプレート、他国衛星群、定義・略語、関連文書が並びます。
第5章の表1には、2020年以降にADS-B等で使う装置は新しい実効雑音密度で認定すべきとあり、TSO-C129(AR)のような古い装置は衛星が増えるにつれ性能低下を起こしうるとも書かれています。以前ADS-Bの記事を書きましたが、あちらとここは地続きです。
三本を並べると見えること #
| AC 20-138D | 5-005(IFR) | 5-006(VFR) | |
|---|---|---|---|
| 誰のための文書か | 作る側・積む側 | 飛ばす側 | 飛ばす側 |
| 何を決めるか | 装置の性能限界と装備方法 | 使用方法 | 使用方法 |
| 法的性格 | 義務ではない(acceptable means) | 通達 | 通達 |
| 分量 | 261ページ・23章+附録10 | 10ページ・11章 | 4ページ・5章 |
| ヘリ固有の規定 | あり(9-5 RNP 0.3、HTAWS、SASの注記) | なし | なし |
| VFR専用装備 | 附録6(“GPS APPROVED FOR VFR USE ONLY”) | — | 第5章(標識) |
5-005が「AC 20-138に従って装備されたもの」と一行で参照している中身が、この261ページです。そしてこの中に、日本の通達には出てこない回転翼機専用のRNP 0.3が丸ごと1節あり、SBAS必須・FTE 0.25NM・機種によってはSASが要る、とまで書かれている。
パイロットとして思うこと #
読み終えて残ったのは、この文書が「装置は積んだ瞬間に別のものになる」という前提で書かれていることでした。
TSOAは取れる。しかしインターフェースの標準はなく、表示器やオートパイロットとの相性は機体ごとに違い、ソフトの保証レベルが装備先を縛る。だから12-7で、機体が資格を持たない機能は殺せと書く。だから附録5で、PBN能力の一覧を飛行規程に載せろと勧める。
装置の性能表と、その機体でできることの間には、必ず一段の落差がある。この文書は、その落差を埋めるための261ページだと読めます。
そしてヘリの側から見ると、9-5の存在は率直にありがたいものでした。エンルートのRNP 0.3が、オフショアと遠隔地を明示的に射程に入れている。洋上では独立2系統を要求し、国内では他系統へ移れるならMinorに落とす。この線引きは、飛ぶ場所によって「使えなくなったときの深刻さ」が違うという当たり前の事実を、そのまま制度にしたものです。
SASがないと0.25NMのFTEを保てない機体がある、という注記も忘れがたい。装置が0.3NMの精度で位置を出しても、その線に乗せ続けるのは操縦なのだと、耐空性の文書のほうがはっきり書いている。
最後にもう一度、いちばん大事な一行を置いておきます。
Obtaining a TSOA/LODA does not ensure that the equipment will satisfy all of the applicable operational requirements and/or airworthiness regulations when it is installed.
TSOを持っていることは、入口の条件にすぎない。4本かけて確かめてきたことが、結局この一行に戻ってきました。
まとめ #
- AC 20-138D「Airworthiness Approval of Positioning and Navigation Systems」は、日本のサーキュラー5-005が装置要件で名指ししている文書。基本版2014年3月28日、Change 1が2014年10月10日、Change 2が2016年4月7日で、現在もActive。全23章+附録10本、261ページ。
- 対象はGPS(ABAS/SBAS/GBAS補強を含む)/マルチセンサーRNAV/RNP(AR含む)/Baro-VNAV。読者は機体・アビオニクスのメーカーと装備工場であり、パイロットではない。
- 性格は義務でも規則でもない(acceptable means, but not the only means)。ただし採るなら重要な点すべてで従う。
- AC 20系=耐空性(装置の性能限界)/AC 90系=運航(運航上の限界)という分業が明記。AC 20-129/20-130A/25-4を廃止し、AC 90-101/90-105の耐空性部分のみを吸収した。
- 最重要の一文は「TSOA/LODAを取得しても、装備したときに運航要件や耐空性規則を満たすとは限らない」。理由にパイロット・インターフェースの標準が存在しないことが挙げられている。
- FAQによれば、GNSSはRNAVでもRNPでもある(RNPはRNAV+機上の性能監視・警報)。そしてRNAV(GPS)進入はRNP手順で、初期・中間・進入復行がRNP 1.0、LNAVファイナルがRNP 0.3。RNP ARは別枠で、承認のない装置のデータベースに入れてはならない。
- TSO-C129aは2011年10月21日にキャンセル。既存TSOAは有効で装備も継続可。大幅変更はC145d/C146d/C196bへ。DO-229Dは単周波GPS/SBASのMOPSとして残る。
- advisory垂直誘導にはTSO要件もMOPSもないため、運航上・認証上のクレジットを主張できない。飛行規程に載せる制限の文言まで例示され、主気圧高度計を使えと明記。GNSSの幾何学的高度はATCの高度要件に適合しない(5-7)。
- 予測プログラムの許容中断は進入5分/RNAV 1・2で5分/RNP 4.0で25分/RNP 10で34分/MNPS 51分。5-005の「5分」と一致する。SAPTは洋上のFDE予測を提供しない。
- 9-5に回転翼機専用のRNP 0.3。GPS/SBAS必須(GPS単独・DME/DME/IRUは不可)、機体はIFR承認済みであること。横・along-trackとも±0.3NMを95%、FTEは0.25NM以下、横偏位表示はフルスケール±0.3NM。オフショア・遠隔は独立2系統が必要(機能喪失=Major)、国内は移行可能ならMinor。機種によっては手動飛行で0.25NMのFTEにSASが必要、IFRでオートパイロット必須の制限はRNP 0.3にも及ぶ。
- 附録6はVFR専用GNSSの装備。no-hazard basis、DAL D可、標識は”GPS APPROVED FOR VFR USE ONLY”。非与圧・6,000ポンド未満のminor alterationが対象。装備は視界・操縦・脱出を妨げないこと。
- 12-7:機体が資格を持たない機能は、ストラップ/ソフト/データベース管理で禁止(inhibit)しなければならない。飛行規程に制限を記載する。
- 15-10:航法に使わない特殊用途GNSS(農業、捜索救難等)は”Special Use — Not for Navigation”として、干渉しないことを条件に緩い方法で承認できる。
- 附録8:GLONASS等の他国衛星群や第2周波数にFAAのTSOは存在しない。追加はnon-TSO機能として行い、GPS側の性能要件やRAIM予測を補ってはならず、運航上のクレジットも期待しない。
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本記事は、FAAのアドバイザリー・サーキュラー AC 20-138D(Change 2を含む)の記述に基づき、現役ヘリコプターパイロットの視点から整理したものです。引用は原文の英語表記のままとし、訳出部分は筆者によるものです。ACは義務的な文書ではなく、実際の設計・装備・運航にあたっては必ず原文および適用される規則、当該機の飛行規程をご確認ください。考察部分には筆者の私見を含みます。
出典
- FAA Advisory Circular AC 20-138D, “Airworthiness Approval of Positioning and Navigation Systems”(2014年3月28日、Change 1:2014年10月10日、Change 2:2016年4月7日) https://www.faa.gov/documentLibrary/media/Advisory_Circular/AC_20-138D_with_Change_1__2.pdf
- FAA Advisory Circulars 一覧(AC 20-138Dのステータス確認) https://www.faa.gov/regulations_policies/advisory_circulars/
- 国土交通省航空局 サーキュラー No.5-005「GPSを計器飛行方式に使用する運航の実施基準」(令和7年3月13日最終改正/国空安政第2879号) https://asims.cab.mlit.go.jp/fsdb/a_circular.nsf/bc2af3923a3cb575492574fd002dd5df/7f822a92532d0ee5492578c400431cc6/$FILE/5-005.pdf
- 国土交通省航空局 サーキュラー No.5-006「GPSを有視界飛行方式に使用する運航の実施基準」(令和4年4月1日一部改正/国空航第3099号・国空機第1186号) https://asims.cab.mlit.go.jp/fsdb/a_circular.nsf/bc2af3923a3cb575492574fd002dd5df/60d7389338c275f6492578c400432aba/$FILE/5-006.pdf
画像出典:Wikimedia Commons “Helicopter and offshore support vessel from a oil rig” by FrogsLegs71(CC BY-SA 3.0)。イメージ画像(AC 20-138Dの9-5が対象とするオフショア運航の例)。
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